「アーマード・コア」10年ぶり新作が爆売れ “マニア向け”ゲームだったのに、なぜ?エンタメ×ビジネスを科学する(3/3 ページ)

» 2023年08月29日 08時00分 公開
[滑健作ITmedia]
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“失敗が許されない”現代ゲーム市場の「王道」とは?

 筆者も早速プレイしたところ、当該シリーズのコア・コンピタンスであるアセンブル(装備や機体のカスタマイズ)と、それによる動作の変化・工夫が必要であることがゲーム内で示されており、高難度のボスに対する装備・動作の試行錯誤で適性解を見つけていくという流れを自然に実行できるよう、ユーザーを誘導する仕組みになっていた。

カスタマイズの幅広さが魅力の一つ(出所:公式Webサイト)

 また、操作・画面への表示方法などはよりユーザーに寄り添う形に進化しており、近年重要視されるUI面はマーケットニーズに即した形で進化しているといえるだろう。つまり、ゲームのコアの面白さはプロダクトアウトで、操作面などユーザーが触れる部分についてはマーケットインで、それぞれの志向を絶妙なバランスで組み合わせて作られている。

 上述したように、昨今のゲーム業界では売れること、失敗を極力避けることを重視するあまり、マーケットに迎合しているゲームも少なくない。

 もちろん、商業的に成功すれば事業者としては良く、それを否定するつもりは毛頭ない。だが、コアの部分はプロダクトアウト、UIの部分はマーケットインというバランスは昨今のゲームにおける王道ともいえる。

 いわゆるネットゲームにおいても、コアの面白さの部分はプロダクトアウト、UI・ゲームバランス調整・イベントなど継続的な運営面についてはマーケットイン、となるだろう。全てがプロダクトアウト、全てがマーケットインではどこかにゆがみが生まれる。組み合わせ、その線引きが最も重要であり、プロデューサーやディレクターの腕の見せ所でもある。

 ここまで書いたように、アーマード・コア新作の初動は成功したといえる。ではこの人気、熱量はどこまで続くだろうか。

 特に今作では同シリーズへの新規参入プレイヤーが相当数存在すると考えられる。ユーザーとの接点を維持するために、DLC(追加ダウンロードコンテンツ)などを展開するのがよく見る手法であり、本作でも候補になるだろう。

 通常の企業であれば、これだけユーザー間で盛り上がっているのであれば、IP人気をさらに盤石なものにするために何らかの動きを見せるはずである。ただここはフロム・ソフトウェアだ。ゲーム内外で良い意味で期待を裏切る、超えてくる企業である。

 前作『ELDEN RING』のようにDLC(開発中であることを発表済み)を作るか、はたまた短期間で新作を出すか。いずれにせよ今回の成功を機に、アーマード・コアというIPの育成・強化には何らかの手法で取り組むことが予想される。

 コア・コンピタンスを重んじ、価値のあるもの作りたいものを作ることを徹底するフロム・ソフトウェアの動向に、いちコンサルタントとして、そしていちレイヴン(プレイヤー)として今後も注目したい。

著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく) 

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 株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。

 またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画等各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。

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