処理水をめぐって“愛国サンドイッチ”の危険性 企業が「日本人」とうまく接する方法スピン経済の歩き方(3/6 ページ)

» 2023年08月30日 10時21分 公開
[窪田順生ITmedia]

“愛国サンドイッチ”の攻撃を受ける

 そう聞くと、「日本人は中国人と違ってそんな愚かなことはしない!」と不愉快になられる方も多いだろうが、企業危機管理の仕事をしていると、現地で「中国人からの嫌がらせ」に遭う一方で、国内でも「日本人からの嫌がらせ」に悩んでいる中国ビジネス企業をよく見る。

 自分たちの同胞である日本企業に対して理不尽な言いがかりをつけたり、事実無根のデマを流したりして、ビジネスの足を引っ張るだけではなく、そこで働く人々や家族を誹謗中傷するような日本人に山ほどお目にかかる。

 つまり、中国ビジネスをしている日本企業は、中国の愛国心ある人々から「日本はいい加減にしろ」と叩かれながら、日本の愛国心のある人々からも「中国共産党の手先め」なんて叩かれてしまう。双方の愛国者から挟み撃ち的に叩かれる“愛国サンドイッチ”ともいうべき攻撃を受けるのだ。

中国でのビジネスが難しくなる?

 例えば、2010年に尖閣諸島中国漁船衝突事件が起きたとき、中国国内で反日デモが盛んに行われた。当然、中国国内でビジネスをしている日本企業も投石や嫌がらせなどの被害にあった。当時、そのような企業から筆者はよく「嫌がらせ」の相談を受けた。といっても、それは中国人からのものではなく、愛国心あふれる日本人からの迷惑行為だ。

 一番多かったのは、お客様相談センターに「日本のために中国から即時撤退するべき」という迷惑電話が山ほどかかってくるので、どうすればこれをやめさせることができるのか、という相談だ。

 オペレーターは他の問い合わせに対応できず、仕事にならない。自分たちは民間企業で中国でビジネスをしているだけなので、政治的な思惑はないとどんなに説明しても、「中国共産党の手先か」などと怒り出して、まともな話し合いにならない。時に会話を録音して勝手にネットにアップしたり、応対した役職者の本名をさらしたりといった被害もあった。

 今、多くのホテルや飲食店が「なぜあなたたちは処理水を海に流すのですか」と中国人から嫌がらせ電話をされて、「そんなことうちに言われても」と困惑しているが、中国ビジネスをしている企業は十数年前からまったく同じノリの「日本人からの嫌がらせ電話」を経験済みなのだ。

 こういう嫌がらせに関しては、中国人も日本人もそれほど変わらない。自分の価値観が絶対的に正しいので、それを受け入れない企業や人を攻撃することは「正義」だと思い込む。過度なナショナリズムが人をモンスターに豹変(ひょうへん)させるのは、どこの国でも見られる現象だ。

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