女性活躍は本当に進んでいる? 「経営」に関わる取締役が全然増えていない“悲しい実情”(2/3 ページ)

» 2023年09月01日 07時30分 公開
[今井昭仁ITmedia]

日系企業 経営に関わる女性取締役はほとんどいない……?

 イギリスでは、取締役会全体の女性比率が増加する一方、経営側の取締役の選任はそれほど進んでいないことを確認してきた。これは、日本においても既に同様の傾向が見られる。

 中小規模の企業での設置がほとんどの会計参与を除くと、会社法上、上場企業の役員は、取締役と監査役に分けられる。そして役員が男性で占められている状況は長く続いてきた。近年では女性役員の選任が進んでいるものの、その多くは社外取締役と監査役である。つまり、女性は監督側で増える一方、経営側での登用は進んでいない

 具体的にその状況を確認するために、TOPIX100構成銘柄のうち、23年3月期に決算を迎えた企業、81社の株主総会招集通知の取締役の選任状況を確認してみよう。この81社の取締役のうち、監督側の取締役(社外取締役、監査役、監査等委員である取締役など)を除き、経営側の取締役として選任される女性数をカウントした。その結果、対象の81社には経営側の取締役が400人以上存在するが、そのうち女性は14人にとどまった。

 取締役選任議案に伴って、招集通知には各取締役の経歴が記載されている。この経歴を確認すると、14人のうち13人が新卒からグループ会社を含む同じ企業でキャリアを歩んできたことが分かる。つまり、経営に関わる取締役は、圧倒的に生え抜きが選任されている。中途・キャリア採用は徐々に広がっているものの、経営に関わる女性取締役を社外から招くパターンや、中途採用の女性管理職が取締役に昇格するパターンは、ほとんどないと言える。

 この14人を選任する企業に目を移そう。経営側の女性取締役を2人選任する企業が1社あるため、企業数としては13社となる。日本の最大手81社で、経営に関わる女性取締役を選任していない企業が依然68社あることが分かる。

新卒採用から見直す重要性

 上記のように、全体数としては少ないものの、経営に関わる女性取締役は生え抜きの割合が多い。今後、労働市場の流動性が高まったとしても、経営に関わる女性取締役を全て外部労働市場から獲得することは難しいように思われる。

 それでは、今後こうした生え抜き人材を増やしていくにはどうすればよいのだろうか。取締役候補者がある日突然生まれてくるわけではない。従って、女性取締役、特に経営に関わる取締役を増やすためには、採用から育成、登用までを一連の流れで捉え、一つのパイプラインを形成する必要がある。

 その入口は採用、特に新卒採用である。この段階で一定数・率の女性が確保できなければ、その後いかに素晴らしい育成ができたとしても、管理職候補や役員候補となる女性数は限られる。23年3月期決算から有価証券報告書に多様性に関する3指標の記載が義務化されたことで、女性管理職比率の数値に注目が集まるようになった。だが、実際にはその前段階の新卒採用から手を打たなければならない。

 その後、パイプラインは管理職登用で問題に直面することが多い。管理職登用まで時間をかけている間に、結婚などのライフイベントをへているが、その間に男性の業務経験が蓄積する一方、女性は時間を重視する意識に変化する傾向がある。企業が時間をかけて慎重に選抜している間に、女性は管理職意欲を失ってしまうのである。これに対処するためには、早期選抜・早期登用へとかじを取る必要がある(参考:コラム「女性活躍のハードルは日本独特の昇進構造」)。

 そしてパイプラインの流れは、取締役候補者に行き着く。しかし、取締役候補者の育成について各社の動向はそれほど明らかではない。コラム「株主総会の招集通知から見えた、人材に関する専門性不足」では、各社のサクセッションプランの記載状況をご紹介した。

 招集通知は株主とのコミュニケーションツールの一つであり、次世代の経営を担い得る人材の育成計画は重要なポイントのはずだ。しかし、TOPIX100構成銘柄のうち23年3月期に決算を迎えた81社のうち、人材の選抜・育成のプロセスや施策について記述していたのは、女性のサクセッションに限定していないにもかかわらず、9社にとどまった。

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