こうしたパイプラインの観点で捉えると、人的資本経営の取り組み方も変わってくるはずだ。具体的には、人的資本の指標として義務化された女性管理職比率だけでなく、女性の新卒採用数・率や、次世代経営人材プールの女性数・率などが視野に入ってくる。
この段階までくると、さらに見えてくることがある。例えば、女性の新卒採用を増やすと、若年層は賃金が低いため、女性従業員の平均賃金は下がる。すると、開示が義務となった男女の賃金の差異も翌年以降、少なくとも一時的に悪化することが予測される。
また、問題が採用後にあるのであれば、メンター制度など、取締役登用までの間に必要な育成施策をどの程度行っているかという点も浮上してくる。ここまでくれば女性活躍を実現するために、説得力をもって施策を展開し、また開示することができるのではないだろうか。
本コラムでは、女性役員比率の30%目標を起点に、女性の取締役登用について検討してきた。女性取締役の選任が監督側に偏っており、経営に関わる女性取締役は現時点で極めて少ない。
この状況を変えるためには、採用から育成、登用までをパイプラインとして捉え、それぞれの段階で適切な施策を打つことが必要だろう。こうしたパイプラインの観点を人的資本経営の取り組みに生かすことで、企業の持続的な成長の実現にもまた一歩、歩みを進められるのではないだろうか。
パーソル総合研究所シンクタンク本部研究員。London School of Economics and Political Science修了後、日本学術振興会特別研究員、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科助手を経て、2022年入社。これまでに会社の目的や経営者の報酬など、コーポレートガバナンスに関する論文を多数執筆。
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