W杯の快挙で注目急上昇 バスケは「国民的スポーツ興行」になるか?エンタメ×ビジネスを科学する(3/3 ページ)

» 2023年09月08日 12時00分 公開
[滑健作ITmedia]
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「スポーツ観戦」の在り方に起きたある変化

 ではなぜ、10年後20年度にバスケットボールが野球・サッカーに比肩する土壌が整いつつあると述べたかというと、その理由もまた消費者の行動変容、メディアの形態変化によるものである。

 日本におけるスポーツの露出は地上波放送への依存度が高いため、地上波での放送頻度が減少するとスポーツの視聴習慣も根付きにくくなる。さらに若い世代の「テレビ離れ」に伴い、年齢が若くなるほどスポーツを視聴する人が少なくなる傾向にあった。

 しかし、それが18〜20年を境に異なる傾向が現れる。2021年に2000人を対象に行ったアンケート調査において、10〜20代におけるスポーツを視聴する割合が30代を上回ったのである。

では、若年層がどのようなスポーツを視聴しているかというと、プロ野球・Jリーグ・そしてバスケットボールのプロリーグ「B.LEAGUE 」(Bリーグ)だ。

 ではなぜ、10〜20代に30代以上と異なる傾向が現れているのか。一つの仮説として、この年代が「スポーツ視聴におけるデジタルネイティブ世代・スマホネイティブ世代」であることが考えられる。

 30代以上の世代にとっては、スポーツの試合といえば地上波で無料で見るものであり、地上波で放送していないスポーツは見ない。一方で、10〜20代にとってスポーツの試合はスマートフォンで有料もしくは無料の動画配信サービスで視聴するものという認識が定着している。上記のアンケート調査においても、スポーツ関連の有料放送・有料配信利用者割合は10〜20代の方が高いという結果であった。

 その結果、オンライン配信環境が整っているプロ野球・Jリーグ・Bリーグの視聴者数が増加したと考えられる。

 特にBリーグの試合は、ソフトバンク・ワイモバイル契約者であれば無料で、それ以外の回線契約者は月額約500円で視聴できる。この価格帯は他のスポーツ系動画配信サービスと比較して低く、これも10〜20代の視聴を後押しした一因であろう。

出所:バスケットLIVE公式Webサイト

 「スポーツはスマートフォンで有料、もしくは無料の動画配信サービスで視聴するもの」という認識が今後の若年層にも定着し、Bリーグが魅力あるコンテンツを配信し続けられれば、10〜20年後にはBリーグおよびバスケットボールが野球・サッカーに次ぐ「見るスポーツ」としての地位を確立するだろう。

 今回のバスケW杯における日本代表の躍進は、10月から始まる新シーズンのBリーグ視聴者数のみならず、今後10〜20年後にわたるBリーグの定着に大きく寄与するだろう。

 ただし、裏を返せばこの視聴環境が途絶えてしまえば元の木阿弥となる。恒常的な人気の定着には、毎年自国で行うリーグ戦の認知・普及が必須である。

 にわかに注目されたバスケットボール人気が維持・向上するか、または元に戻るのか、全ては今後のBリーグに依存すると言っても過言ではない。すでに発表されている26年シーズンに向けた将来構想と合わせ、若年層に定着し始めている視聴環境についても強化を図り、未来の子どもたちがアリーナだけでなく、いつでもどこでもバスケットボールを見て楽しめる環境が作られることに期待したい。

著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく) 

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 株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。

 またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画等各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。

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