W杯の快挙で注目急上昇 バスケは「国民的スポーツ興行」になるか?エンタメ×ビジネスを科学する(2/3 ページ)

» 2023年09月08日 12時00分 公開
[滑健作ITmedia]

野球とサッカーが「文化」として定着したワケ

 まず、娯楽が多岐にわたる現代の日本で、新たな競技が野球やサッカーと同様の人気を得ることは不可能に近い。野球とサッカーはすでに、「文化」と呼べるほどこの国に定着しているコンテンツである。

 野球の人気は20世紀初頭から始まる全国高等学校野球選手権大会(当時は中等学校)や、六大学野球が人気を集めたところに始まる。さらに六大学野球のスターである長嶋茂雄氏がジャイアンツに入団したことで、プロ野球人気は絶頂期を迎えた。

 戦争、そして戦後の復興から高度成長期に至るまで、子どもから大人まで楽しめる娯楽の中心に君臨し続けたのが野球であり、その結果文化としてこの国に根付いたのだ。

 一方でサッカーの人気の黎明期は野球と異なり、どちらかというと人工的に根付かされたコンテンツといえる。

 バブル経済の余韻が残り、資金的な余裕があったが故の盛大なJリーグ開幕、直後のドーハの悲劇、ジョホールバルの歓喜、1998年フランスワールドカップでの全敗、そして自国開催の2002年ワールドカップにおける初勝利からベスト16入り……と、約10年の間にこれだけの浮き沈みがあり、ストーリー性のある展開が起きたことで、消費者だけでなく報道するメディア側にも一つのコンテンツとして定着した。

 何より、Jリーグが30年にわたって安定して運営できたことが、野球に続くスポーツコンテンツとしてこの国に根付くことに大きく寄与した。

マスメディアの強さと「国民的スポーツ化」の相関

 ここまでの出来事の多くは2000年以前、つまり「メディア≒テレビ・新聞」の時代に起きたものである。つまり、大多数の人が受動的に同じ情報源に触れていたが故に、野球やサッカーは人々の共通の話題となり、文化としての定着と人気の確保につながった。

スポーツ観戦の定着にテレビ・新聞が果たした役割は大きい(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 では、2000年以降はどうか。インターネットやスマートフォンの普及、それに伴うテレビ・新聞のプレゼンス低下により、それまでの受動的な情報収集から、能動的に各人が欲するコンテンツ・情報にアクセスする形へと行動変容が起きた。

 その結果、人々の趣味嗜好(需要)とコンテンツ(供給)は多様化が進み、こんにちでは一つのコンテンツが国の文化レベルにまで定着することは極めて難しくなった。

 以前であればメディアで繰り返し取り上げることで相当割合の人々にそのコンテンツの存在を認知させ、定着させ、消費させることができた。現代ではメディアで取り上げても期待した消費効果は得られず、結果としてスポンサーも手を引き、メディアも取り扱わなくなるという悪循環が起きることが少なくない。

 スポーツ全般がこの環境変化の影響を受けており、女子サッカーやラグビーのように今回のバスケットボールと同等かそれ以上の成果を国際大会で上げた競技でさえ、大々的なファン層の拡大や文化としての定着には至っていない。

 ラグビーでは2019年の自国開催のW杯で大成功を収め、代表チームも初の8強入りと大躍進。大会直後に当時のリーグ戦であるトップリーグが開幕し、高まったラグビー人気を定着させる千載一遇の機会を得ていたものの、新型コロナウイルスの感染拡大によりリーグ戦は途中打ち切りとなり、機を逸するという不運もあった。

 国際大会で成果を上げたその瞬間を除けば、バスケットボールの視聴者数の規模はプロ野球や高校野球・日本代表サッカーの10分の1、サッカーJリーグの5分の1以下の規模にとどまる。

 メジャースポーツとして、また文化として人々に定着するための条件が整っていない以上、バスケットボールが既存のメジャースポーツと同等の人気・支持を一足飛びに得ることは不可能といえるだろう。

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