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相次ぐ“ジャニーズ離れ” 起死回生のために「企業としてすべきこと」(2/4 ページ)

» 2023年09月21日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

 対応が不十分と感じさせてしまった要素として、次の3点が考えられる。

(1)藤島家による「同族経営」が変わらず続いていくと印象付けてしまった点

 新社長には所属タレントの東山紀之氏が就任し、年内を目途に芸能活動を引退して社長業に専念する旨を発表した。しかし、経営責任を取って社長を引責辞任したはずのジュリー氏は「補償が進むまでの間」との期間限定ではあるものの、代表取締役には残ることもまた明らかになった。しかも、ジュリー氏はジャニーズ事務所株を100%保有している大株主の地位までそのままだ。

 同族会社からの脱皮や経営の透明性向上により、経営ガバナンスの強化を進めることが強く求められている状況にありながら、このままではジュリー氏がいわば「院政」を敷く形となり、引き続き実質的な一族経営が継続していくものと受け止められても仕方ないだろう。

 「いくら言葉を繕ったところで、結局同族支配が続いていくのだろう」と感じさせる象徴的なやりとりは、会見内にも存在した。被害者への補償について質問された際、ジュリー氏はこう答えたのだ。

 「叔父の起こした問題ですので、姪として責任を取りたいと思っております」

 家族経営の個人商店ならまだしも、ジャニーズ事務所は従業員数210人、所属タレントは270人を超える、わが国でも最大手クラスの芸能事務所である。そのトップが公の場で「叔父」「姪」の関係性を持ち出すこと自体、違和感を拭い切れない印象だ。

 ジャニー氏の性加害を巡って組成された再発防止特別チームがまとめた調査報告書では、同事務所を「深刻なガバナンス不全」と批判していたが、まさにこのような感覚にも表れている。ジュリー氏にとってのジャニーズ事務所は、いくら社長の首が替わろうとも、結局は「自分が継いだ店」程度の認識なのであろう。

(2)「ジャニーズ事務所」という社名も変更しない点

 名称変更に関しては事務所内部でも大変な議論がなされたとのことだったが、結果的には「ジャニーズというのは創業者の名前であり初代でもあり、大事なのはこれまでタレントが培ってきたプライドなど、その表現の1つと思っている」「ファンの方に支えられているので、今後はそういう(ネガティブな)イメージを払拭できるほど、頑張るべきだと今は判断している」との理由で、社名変更の考えがないことを明らかにした(9月19日に開催されたジャニーズ事務所の取締役会では、今後の社名変更の可能性について議論はなされたと発表。10月2日に進捗状況を公表するとしている)。

 謝罪会見の場であえてファンに関して再三言及したこと自体、一見場違いとも感じられる。だが「ファンの皆さまには、本当に感謝の気持ちしかございません」とジュリー氏が号泣するなど、同事務所にとってファンの存在は実に大きなものだ。

 ジャニーズ事務所が抱えるファンクラブ組織「ジャニーズファミリークラブ」(以下FC)は、2023年9月時点で累計1374万人が加入しているといわれる。初年度のみ入会費1000円、年会費4000円、事務手数料140円の設定で、仮にそれだけの加入者がいるなら、事務所は何もしなくても年間約570億円の収入が得られる計算となるわけだ。スポンサーがどれだけ離れようとも、それだけの収入を約束してくれるファンの多くが社名存続を望む意向とあっては、簡単に変更できないとの気持ちも分からないでもない。

 しかし、いくら数多くのファンから支持されていようとも「ジャニーズ」ブランドが通用するのはあくまで国内だけの話。国際的にみれば、ジャニー喜多川氏は小児性愛者で、かつ長期間にわたって未成年者に性的虐待を繰り返していた犯罪者のような(実際はその件で起訴はされていない)認識を持たれる存在だ。

(ジャニーズ事務所公式Webサイトより引用)

 そんな不名誉な名前を事務所に冠するなど、世界的には考えられないことだろう。グローバル企業が次々とスポンサーから手を引くのは当然であり、それらの点にかなり無頓着なようにみえる国内メディアは、感覚がマヒしているといえるかもしれない。

(3)事務所の隠蔽体質が依然変化していないと感じられた点

 大きく損なわれた事務所の信頼を取り戻すためには、従前の延長線上にはない、抜本的な組織改革が求められるところだ。しかし、その矢面に立たされたのは、事務所所属タレントである東山氏と井ノ原快彦氏。東山氏は「外部からコンプライアンスの責任者を招き、人権侵害防止の体制を整備するなど、二度とこうした問題が起こらないよう、再発防止策を行っていく」と述べたが、それだけでは同族経営からの脱却さえ厳しく、果たして社会の期待に応えられるかどうかは未知数だ。

 全体を通して、今般の会見は本来あるべき「過去を強く反省した企業経営陣が、信頼回復のための組織改革策と具体的な方針を表明する場」というよりは「人気タレントがアイドルやファンについて熱い思いを語り『これから頑張っていく』との前向きな決意表明を聞く場」程度にとどまった印象を受けた。

 一方で、本来その場にいなくてはならないはずのジャニーズ事務所におけるキーマンは、当日ついに姿を現すことがなかった。その人物とは、事務所の前副社長であり、広報担当として長年メディアコントロールをしていた白波瀬傑氏である。

 白波瀬氏はジャニー氏の存命中から、テレビ局や女性誌、スポーツ新聞などに存在するジャニーズ担当者(通称「ジャニ担」「J担」)を抑え、ジャニーズメンバーにまつわる事件はたとえ些細なスキャンダルであっても、彼が「NO」と言えば一切扱えなかったといわれる。彼の意向に沿わなければ、逆に自社メディアにジャニーズタレントを出してもらえなくなるため、事務所との関係が崩れることを恐れ、各メディアは白波瀬氏の言いなりになってきたという不名誉な経緯もまた存在する。

 週刊文春との裁判でも証人として法廷に立ち、ジャニー氏の性加害について事務所内で誰よりも詳しく知っているはずの白波瀬氏は、この会見に先立つ9月5日付で副社長を退任していた。事務所が過去を反省して出直すための場であれば、氏が過去について洗いざらい話し、総括することには大いに意味があったはずだが、事務所としてそうさせなかったのは、白波瀬氏が東山氏や井ノ原氏のように上手く「演技」できなかったからかもしれない。この一事だけをみても、余計な腹を探られたくないという、事務所全体を覆う隠蔽体質を強く感じてしまうところである。

 もしかしたら、当該会見における事務所側の説明次第では、広告主として取引を継続しようと考えるクライアント企業もあったかもしれない。しかし現実は、よほど会見内容に失望したのであろう、会見直後にまず日本航空がジャニーズタレントのCM起用を見送ることを発表。その後雪崩を打つように、大手各社がCM契約打ち切りや、契約更新しない旨を表明している状況だ。さらには、各社のコメントも辛辣を極めている。

アサヒグループホールディングス

(ジャニーズ事務所との)取引を継続すれば、私たちが人権侵害に寛容ということになる。

サントリーホールディングス/経済同友会

チャイルド・アビューズ(子供への虐待)を認めることになり、国際的にも非難の的になる。

 各社とも長年にわたって、広告宣伝効果が大きいジャニーズタレントに依存してきたため、急に販促戦略を見直すことは容易ではないはずだ。しかし、それでもこの短期間で多くの企業が追随してきているということは、各社とも不退転の決意で臨んでいるとの姿勢の表れであろう。

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