大手各社の「ジャニーズ離れ」にここまで急な動きが出るとなると、違和感を抱く人も一定割合いらっしゃるだろう。
実際の反応として「問題を起こしたのはあくまでジャニー喜多川氏であり、所属タレントは何も悪くない」「何の罪もなく、混乱に打ちひしがれているタレントに対してさらに追い打ちをかけるように仕事を干すなんて!」「これまでさんざんジャニーズタレントの世話になっておきながら、このタイミングで契約打ち切りや更新を見送る企業は裏切り者」といった意見が散見される。
気持ちは分からなくはないが、そのようなお考えをお持ちの方々は、恐らく「個人」と「法人」の問題をごっちゃに捉えてしまっている可能性が高い。
もし仮に、性加害事件を起こした人物が芸能事務所の一所属メンバーであれば、広告契約を切られるのは当該加害者メンバーだけであり、同じ事務所の他メンバーが連帯責任を被って同じように契約を切られることなどないはずだ。この場合、あくまで「個人」の問題だからである。
しかし今般のケースは全く構造が異なる。事件を起こした人物は芸能事務所のトップであり、多くの事務所所属未成年メンバーに対して、長年にわたって性加害を続けていたことが裁判で認定され、その事実を事務所ぐるみで隠蔽していたわけである。すなわち問題になっているのはジャニーズ事務所という「法人」なのだ。事態の深刻度からすると、契約打ち切りや取引停止はビジネス上当然の対応といえよう。
タレントに罪はないことなど、契約打ち切りを判断した企業自体も重々承知している。
それでも打ち切りを断行するのは「少年に対する性的虐待をした、事務所の人権侵害行為に対する制裁」であることを忘れてはならない。
一時的な「情」でジャニーズタレントの起用を続けてしまえば、人権侵害行為をした事務所をもうけさせてしまうことにつながり、ジャニー氏の犯罪行為や事務所の隠蔽体質を追認することにもなってしまいかねない。それでは巡り巡って広告主企業のレピュテーション(評判)を低下させることになってしまうだろう。
仕事を干される形となってしまったタレントを救済する必要はもちろんあるだろうが、それはあくまで事務所側の責任問題。広告主のクライアントが配慮すべき事項ではないのだ。
ジャニーズ事務所は9月13日、公式Webサイト上で、今般の性加害問題について「加害者である故ジャニー喜多川と弊社の体制に原因がある」としたうえで、被害補償と再発防止策を発表した。要点としては次の通りだ。
一見真っ当な対応のように見えるが、危機管理対応としてはまったく本質的ではない弥縫策(びほうさく)に過ぎない。
第三者委員会が調査報告書で示した「解体的出直し」との提言を完全に無視したかのような「ゼロ回答」とさえいえるだろう。それどころか「1年間ギャラをとらない」と殊勝な姿勢を示して逃げ切り、ほとぼりが冷めた頃に改めて今の体制のままで活動再開しようとするかのような、あざとい姿勢さえも見え隠れする。
また芸能事務所としてのマージンをとらなければ、所属タレントは喜んでも、そこで働く210人の従業員の人件費は入ってこなくなるわけで、スタッフをないがしろにしていると批判されても反論できないだろう。
事務所としてはこれを切り札との取引継続は困難なのだから「取引継続を困難にしている要因」を排除するところから始めなければならない。
したがって、ジャニーズ事務所が本来このタイミングで断行すべきなのは、第三者委員会が提唱する「解体的出直し」しかありえない。
すなわち、下記の程度の取り組みは最低要件といえよう。
個々のタレントに罪はないわけで、広告主企業側としても彼らの宣伝効果には期待したい。しかし人権問題を抱えた事務所と取引することはコンプライアンス上も困難であるし、仮に強気でジャニーズタレントと契約継続、新規契約したとなれば、発表会見で尋ねられたり報道されたりするのは、肝心の商品やサービスにまつわる情報ではなく、「なぜ今ジャニーズタレントを起用したのか?」との質問ばかりとなってしまい、辟易する展開となることは目に見えている。
とすれば、どうしてもジャニーズタレントを扱いたい場合は、ジャニーズと無関係の新事務所経由での契約とするか、個々のタレントと個別契約するしかないわけだ。逆に、「できるなら、すぐにでもそうしてほしい」と歯痒い思いをしている広告主企業も多いことだろう。
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