ただ、一方でこうした動画配信サービスの数少ない弱点と言えるのが、視聴者が自分の好きな時間にバラバラに視聴したり、一気見してしまう関係で、口コミのタイミングが少ないという点です。
地上波のテレビドラマが週に1話ずつ放送するというのは、一気見したい人からするとデメリットになりますが、SNS上の話題化という意味では10話で10回のチャンスがあるメリットがあると言う見方ができるわけです。
実際に『VIVANT』の言及数をYahoo!リアルタイム検索でグラフ化すると、毎週のように放送のタイミングで大きな話題が巻き起こっていることが良く分かります。
さらに重要なのは、この話題のピークの間にも毎日数千件単位での言及があるという点です。『VIVANT』の放映期間中、特に後半の盛り上がりの過程においては、ファンの人たちは毎日の様に何かしらの『VIVANT』の話題に触れていたわけです。
一般的な動画配信サービスのドラマでは、こういう形の口コミは滅多に発生しません。実はこうした違いが、アニメのヒットの違いを生んでいるという考察が既にされており、『ガンダム 水星の魔女』では不便な毎週1話方式を逆手にとり、多くのファンの口コミを発生することに成功したといわれています。
(参考記事:『ガンダム 水星の魔女』大成功を導いた“Twitter占拠作戦”の破壊力 明らかに不便な「毎週1話」方式が日本で好まれる理由とは)
最近では、動画配信サービスにおいても全話を一気に配信するのではなく、週に1本ずつ公開することで話題のタイミングを増やそうとしているケースも増えていますが、明らかにこうした話題化のタイミングを増やすための取り組みだと考えられるでしょう。
そう考えると、実は、日本の地上波のテレビドラマの一つの勝ち筋は、放送時間が毎週決まっているという「不便さ」を逆手にとり、『VIVANT』のようにみんなで盛り上がるピークにすることで、毎週の放送時間が山場となるお祭り期間を作ることだと考えられるわけです。
すでに『VIVANT』ロスに陥ったファンからは、続編制作の声も多く上がっているようですが、まずは今回TBSが制作費1億円という投資を手応えを持って回収できるかどうかが、続編が作られる一つのポイントになるのは間違いありません。
視聴率が高かったとは言え、通常のテレビドラマの3倍とも言われる制作費を、テレビCMの収益だけで回収できないのは明らかなはずです。
ただ、今回『VIVANT』が大きな話題になったことで、『VIVANT』主演の堺雅人さんが出演する丸紅のテレビCMも大きく注目されたように、ドラマの成功がテレビCMビジネスにも好影響を与えるのは間違いありません。
今回の『VIVANT』の挑戦が、日本のテレビドラマの一つの勝ち残る道を示していることは間違いないように思います。
すっかり話題に乗り遅れて見逃してしまったという方は、是非今からでもTBSと『VIVANT』制作チームの挑戦の軌跡を確認されてみることをオススメしたいと思います。
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