「値上げ=客離れ」はどうなった? ココイチの業績が好調なワケスピン経済の歩き方(5/6 ページ)

» 2023年10月10日 11時20分 公開
[窪田順生ITmedia]

「低賃金ブーメラン」の構造

 ご存じのように、日本は世界でも常軌を逸した低賃金だ。平均年収ではお隣の韓国にも抜かれており『日本の部長は「タイより年収が低い」の衝撃的事実』(東洋経済オンライン 23年4月29日)という記事が示すように業種によってタイ、ベトナム、シンガポールなどにも抜かれ始めている。

 「だから、そういう低賃金な庶民がワンコインで腹一杯食べられる外食チェーンが必要なのだ!」と怒る人もいるだろうが、そうした安易な発想が、日本を世界有数の「低賃金大国」にしてしまった「犯人」だ。

 多くの日本人は最近ようやく知ったことだが、世界では食料やエネルギーという「限られた資源」は各国で奪い合いをしているので、経済成長する国が増えれば当然、需要増によって高騰する。ということもあって世界では当たり前のように、外食でも製品でもサービスでも値上げする。消費者も受け入れる。

平均給与の推移(出典:厚生労働省)

 しかし、日本では「企業努力」という謎の精神論で、企業側が調達の効率化などで「低価格をキープ」するのが当たり前となっている。外食チェーンはその代表格だ。しかし、資源の高騰は止められないので当然、この「努力」には限界がある。じゃあどうやって「安くてうまい」を実現するかというと、人件費を削るしかない。日本だけ30年も平均年収が上がらないのは、物価が上昇をしていく中で低価格をキープするために実質的に「賃下げ」をしてきたからなのだ。

 つまり、外食チェーンに対して「庶民のために値上げするな!」と怒ることは、外食チェーンで働いている学生や主婦、フリーターの皆さんに「お前らの仕事は、大した価値も生んでないので低賃金で我慢しておけ」とののしっていることと同じなのだ。

 こういう「低賃金ブーメラン」の構造がようやく社会にも広まってきた。「消費税をゼロにすれば解決」とか「外食への手厚い補償がない」とか、いろいろと夢物語のようなことを言っている人もいるが、バラマキをして瞬間風速的に金回りがよくなっても、その後にさらにひどい崩壊が待つというのは旧ソ連を見ても明らかだ。

 消費者が急速に減って内需が冷え込むこの日本が、経済成長を続けるには1人当たりが生み出す「価値」を上げていくしかない。つまり、「賃上げ」だ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.