さて、すでにだいぶ長くなったが、実はここからが本筋である。冒頭で述べた通り、今回のものづくりワークショップのテーマは生産技術と生産設備のDXである。トヨタではそれを「デジタルとアクチュアル」と言い換えていた。つまりデジタルが絶対正しいということではなく、トヨタがこれまで長らく主張してきた「現地現物」をデジタル武装させたものだと思うと分かりやすい。それが今回の発表のおそらくはメインとなるデジタルツインの話である。
現地現物とは、現地に足を運び、現物を見て考えるということだ。本来は薄っぺらい表層の理解で、現物を無視するのは罷(まか)りならんということだ。百聞は一見にしかずと言ってもいい。だがしかし、現地現物の最大の弱点は、現地に行って現物を見るまで分からないということである。
一生懸命頑張って考えたシステムが、実際に作ってみたら問題があったということは、いくら考えても起きる。一番有名な話は、米国の最高知能を集めてさえ、防ぐことができなかったアポロ13の酸素タンク爆発事故だろう。配線がショートしなければ、あるいはショートしても酸素タンクに着火しなければ問題がなかったが、それは起きる構造になっていて、現実に起き、その結果あわや地球に戻れなくなるところだった。それは想像力の欠如によるものだ。
想像力は無限だといえば格好が良いが、現実には足りないことが起きる。だから工場の設備を、実際に見て、使ってみないと分からない。しかし現実に出来上がってしまった工場で修正が必要になれば時間もコストも無駄になる。だから生産設備を全てデジタル上で再現するのだ。
開発ルームの中で、VRゴーグルを装備して、バーチャルの画像を見ながら、ダミーの生産機械を操作する。ダミーは現物と同じサイズ、重さ、使い勝手に作られており、VRゴーグルでデジタルの画像を見ながら、リアルな作業がトレースできる。そこでいろいろなことを検証するのだ。
作業の重さは適切か。取手の高さや形状はどうか。足元は体を支えるに十分な位置に足を置けるようになっているか。あるいは、手順を示すマニュアルを映すモニターの高さは見やすいか。標準作業位置から、アンドンはちゃんと見えるか。こうした検証を事前に済ませておけば、設備を作ってから「想像力の欠如」に打ちひしがれる確率が下げられる。それはより素早いビジネス展開を可能にするだけでなく、コストの削減まで可能にするのである。トヨタはこれを「素早くやって何度もチャレンジ」と表現する。「素早さ」も「何度も」もデジタルの恩恵である。
異常が発生したら、即時に関係者が知ることができるようにアンドン(電光表示盤)に表示される。
トヨタ生産方式を取り入れた生産現場では、「目で見る管理」が重視される。その道具の一つとして、設備の稼働状況や作業指示が一目で分かる電光表示盤「アンドン」が利用されている。
「アンドン」は、ラインを効率的に管理するための道具で、関係者に作業や処置を促す情報を表示する。表示が機械異常の場合には担当者は異常処置を行い、職制は原因を調査し再発を防止する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング