「はま寿司」に続き「スシロー」も“デジタル回転寿司” DX専門家に聞く業界の行方長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/4 ページ)

» 2023年10月31日 10時00分 公開
[長浜淳之介ITmedia]
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専門家はデジローをどう評価したのか

 飲食業のDXを推進する、レストランテック協会(東京都中央区)の山澤修平代表理事は、スシローの新宿西口店を訪れてデジローを体験した感想として、次のように述べる。

 「新しい回転寿司業態として、非常に未来を感じた。まだ実験店舗という位置付けで、設計上での改善点は見受けられたが、アプリと連動させたデータ活用により、顧客体験やマーケティングをパーソナライズさせていける余地があり、今後の展開に注目したい」

 山澤氏は、メニューランキングを活用することで、より注文しやすいメニュー作りが可能な点や、使用している食材の生産者情報を見られて安全・安心につながる点を評価した。食べて気に入った食材が注文できる、食材ECの可能性も広がるだろう。席に顧客を映すカメラを設置して属性を分析し、顧客ごとにリコメンドできる機能があって良いかもしれないとも話す。アプリの個人IDとひもづければ「いつものメニュー」がすぐに注文できるなどのパーソナライズできる余地もある、とのことだ。

スシローに関するクイズも出る
はま寿司のデジタル回転寿司は、レーンの上に帯状に配置
はま寿司のデジタル回転寿司

 さらに山澤氏は、かつての「インベーダーゲーム(スペースインベーダー)」のように、ディスプレイではなくテーブル上で寿司の画像を回す手もあると指摘する。この方法なら、4人席でも4人ともが同時に注文できる。ただし、各自の積み上がった皿が邪魔をして、画面が見にくいデメリットもあるだろう。この点に関しては、配膳ロボットがテーブルの重さを察知して、適時片付けにやってきてくれるような仕組みができれば解消できる。

 目立った課題としては、タッチパネルの反応が一部遅く、使いづらい面が散見されたという。また、3人・4人掛けの席では、通路側に座った人がオートウェイター側に座った人に、口頭か紙に書いてオーダーしてもらわなければ、注文できない不便さもあった。しかし、後者はタブレットを併用することで、ほぼ解決できると山澤氏。

山澤氏(写真提供:レストランテック協会)

 飲食店の予約・管理システムなどを事業化しているテーブルチェック(東京都中央区)の谷口優社長は「慢性的な人手不足が続く飲食業界で、デジローは一つの解を示している」と、高く評価する。新たに設置した大型ディスプレイは、回転寿司特有のエンタメ要素も維持しつつ、人の手を介さずより効率的に注文・品出し・会計までを行えるように設計されている点をポイントに挙げた。作業負担を極力軽減しつつ、注文数を落とさない工夫も凝らされていると話す。

 一方でリスクもあるという。「注意すべきは、接客の完全な排除だ。外食は人と人とのコミュニケーションの場として、重要な役割を担っている。デジタルが提供するエンタメ性だけでなく、人の接客によってもファンが付くような運営が理想ではないか」と提案する。

谷口氏(写真提供:テーブルチェック)

 あきんどスシローの新居耕平社長によれば、デジローは「回転寿司の一歩先へ向けた新たな取り組み」だそうだ。デジローを導入する店舗は良いとして、今後オートウェイターのみで運営する予定の約80店は、競合他社と似ていて面白みに欠けるといえる。ぜひとも、デジローをさらに改善した上で、多くの店舗で導入してもらいたいものだ。

事業戦略を発表する、新居社長

著者プロフィール

長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。


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