トヨタの凄さと嫌われる理由池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2023年11月27日 09時41分 公開
[池田直渡ITmedia]

トヨタのDNA「原価低減」

 TNGAは今のトヨタを理解するにあたって非常に大事なことだが、それはトヨタの事業の上ではあくまでもトレンドに類することだ。もっと本質にあるトヨタのDNAともいえるのは「原価低減」である。トヨタは決算のたびに3000億円の原価低減を進めてくる。その数字は対前年で積み上げていくので、10年間の合計は10倍だ。10年前に比べて単年度で3兆円のコストダウンを実現するということである。

16年から22年までの6年間で、2兆1417億円の収益改善を行った。結果、販売台数の減少、資材価格の高騰をカバーして増益を実現している

 仕入れ先を叩いて毎年3000億円の原価低減ができるわけがない。ただ値下げ要求だけをしていればサプライヤーが潰れてしまうからだ。トヨタは仕入れ先に出向いて、よりローコストで良い部品を作るための知恵を出し続けている。つまりサプライヤーとともに作り方の工夫を推し進めることで原価低減を実現している。

 筆者自身、これでも一応経営者の端くれなので、そこは嫌になるくらい見てきた。赤字をなんとかしなくてはならない時、素人は売り上げを伸ばそうとする。しかし売上増加はまずノーコストではできない。赤字に加えてコスト増の勝負は、踏み出したら戻れない片道切符なので必ず勝たなければならない。原価をかけて魅力的な製品を作ったり、販促に費用を突っ込んで売り上げを上げるのだ。しかし、ここはどうしたって外部要因で、売れるか売れないかは常に賭けになる。負ければ傷が拡大する。下手すれば潰れることなる。

 だから普通のプロは経費を減らす。それは削り取る作業になりがちで、クオリティーが落ちたり、日々の仕事が窮屈になったりする。社員の士気が落ちて、顧客からも事業が魅力的に見えなくなる。何も攻めずに経費削減に終始すれば、当然のごとくジリ貧が待っている。それが分かっていても勝ち手として確実性が高いのは、攻めより守りなのだ。

 そういう普通の手法を一度頭に入れてから、トヨタが何をやっていたかをもう一度思い出してみると、彼我の差が分かる。トヨタはクオリティーを犠牲にした過去を反省し、クオリティーを落とさずにコストを落とす方法を考える。もっといえば製品を良くしながらコストダウンを進めたのだ。

コストダウンの結果、損益分岐台数はリーマンショック時の6割まで低下した

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