イノベーションを実現させるビジュアルワークスペースを提供する米Miro(ミロ)は、米、英、日本など7カ国の企業の経営幹部と従業員を対象に、イノベーションについての意識調査を実施した。
調査結果からは、日本の経営幹部と従業員がともにイノベーションを緊急の課題と認識しているものの、実際にはイノベーションが進んでいない実態も明らかに。日本企業が抱えるイノベーションについての課題を、Miroの日本法人ミロ・ジャパンの五十嵐光喜代表執行役社長に聞いた。
Miroの調査は7月にオンラインで実施した。米国、英国、オランダ、フランス、ドイツ、オーストラリア、日本の7カ国に在住する企業の経営幹部1792人と、製品開発やエンジニアリング、プロジェクト管理などに携わるフルタイムの従業員8261人が回答している。 イノベーションを急務と考えているかどうかの質問では、経営幹部の98%が「イノベーションは急務」と回答した。98%という割合は、世界全体と日本の経営幹部それぞれで同じだった。
一方、危機感については世界と日本では温度差がある。自社でイノベーションが起きない場合、5年後には生き残れなくなる可能性があると回答した経営幹部は、世界全体では82%だったのに対し、日本では68%と14ポイントも低い結果となった。
日本では経営幹部と従業員の間にも、やや意識のずれがある。日本の従業員でイノベーションが急務だと回答したのは79%で、経営幹部の98%に比べると低い。また、世界全体では従業員の90%が「イノベーションは急務」と回答していて、日本の79%は7カ国で最低の数字だ。
この結果について五十嵐氏は、日本企業では経営幹部も従業員も、イノベーションに対する危機感が薄いと指摘する。
「5年後に生き残れなくなる可能性について、経営層の認識がグローバルと日本で14ポイントも開きがあるのはショッキングな結果です。日本の経営層は、イノベーションが急務だと頭では分かっていても、心の中では5年後はまだ大丈夫と思っているのではないでしょうか。
また、イノベーションが急務である認識はグローバル企業では従業員にまで共有されていますが、日本企業ではもう一つ浸透していません。これらの調査結果からは、グローバル企業に比べて、日本企業のイノベーションに対する危機感の薄さが浮き彫りになっています」
調査結果からは、日本企業の経営幹部が抱える具体的な課題も見えてくる。「イノベーションは進んでいない」と答えた経営幹部は49%と、約半数に及んだ。進んでいない理由の1つに、不安定な経済情勢が挙げられる。経済がもう少し落ち着くまで、自社のイノベーションを保留した方がいいと考える経営幹部の割合は53%。リスクを冒してまで画期的なイノベーションを優先しないと答えた割合も54%と半数を超えた。
もう1つは恐怖心だ。恐怖心がイノベーションを妨げていると回答した経営幹部は、69%と高い数字を示した。経営幹部の約3分の1にあたる32%は、イノベーションに失敗することでキャリアが頓挫する、あるいは自分の評価が落ちると考えていることも分かった。従業員についても49%は、自社がイノベーションに失敗した場合に、自分が職を失うことを心配している。
さらに、時代遅れといえる技術の更新や、部門の壁を越えて協力することの困難さも、日本企業でイノベーションが妨げられている要因だ。この点については経営幹部と従業員の認識は一致している。
グローバル企業の多くは、競合他社によるイノベーションを最大の脅威だと考えている。それに対して日本企業の経営幹部は、競合他社が画期的なイノベーションを起こすことよりも、漸進的なイノベーションを起こすことの方が脅威と答える人が多かった。こうした日本企業の考え方を、五十嵐氏は次のように分析する。
「おそらく日本の経営層は、いまだにブレークスルーはうまくいかないケースが多いと考えているのではないでしょうか。日本企業はファーストランナーよりも、2番手や3番手を良しとする傾向があると以前から言われています。業界の先頭に立ってブレークスルーを起こすよりも、誰かがリスクのある橋を渡ってからすぐについていく。その感覚が今回の調査結果に現れていると感じました」
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