しかし本当にぐるぐるモデルが全ての企業の価値創造の手法になるのだろうか。検索エンジンのようにAIが核になるサービスならまだしも、一般企業にとってAIがビジネスの中核になることなどあるのだろうか。2年前にこの本の原書を読んだときは、本の中に引用された一般企業の事例を見ても、無理やりこじつけているようにしか見えなかった。
そんな中、生成AIの時代が到来した。生成AIはホワイトカラーの業務の生産性を大幅に向上させることは間違いない。ただ多くの人がまだ気付いていないのが、生成AIによって企業のDXが、まったく別の次元にまで昇華される可能性だ。
生成AIの代表は言語AIである。言語AIをチャット型にしたChatGPTは、それ単体でもホワイトカラーの生産性を向上させるが、プラグインと呼ばれるプログラムやデータベースとつながることによって、その可能性が何十倍、何百倍にも拡大する。
同様に今後企業が言語AIを導入し、言語AIにありとあらゆるソフトやデータベース、機器をつなげていけば、言語AIがソフトやデータベース、機器を操作するようになる。「こういうシステムを構築して」と命令すれば、言語AIがどのプログラムとどの機器を結びつけるべきかを自分で判断してシステムを構築するようにもなるだろう。さらには「顧客満足度を10%向上させて」というような具体策を示さない命令にも、言語AIはいろいろなプログラムや機器を操作し、目標を達成するまで試行錯誤を繰り返すようになるだろう。
マーケットが変化したり消費者のニーズが変化したとしても、言語AIが即座にシステムを改良してくれるようになるかもしれない。使えば使うほどAIはぐるぐるモデルで賢くなる。言語AIのおかげでシステムを考案したり構築したりする部分までが、ぐるぐるモデルの中に取り込まれることになるわけだ。これが今後の企業DXの方向性だ。
エクサウィザーズは、こうした時代が来ることを早くから予見し、相互に接続しやすいような形にしたAIモデルやツールを「exaBase」というAIモデルを中心としたプラットフォームの中に取りそろえてきた。またそれをパズルを組み合わせるような手軽さで接続できるようにした「exaBase Studio」というノーコード・ローコード的なツールも開発している。そして言語AIでexaBase Studioを操作できるようにもなってきた。
『AIファースト・カンパニー』の原書が執筆されたのは、今回の生成AIブームが始まる前。なので生成AIが企業システムに与える影響には言及されていない。しかしAIのぐるぐるモデルを回さなければならないというこの本の主張は、生成AI時代になった今、さらに的を射たものになってきたと言えるだろう。
ChatGPTで生成AIブームを巻き起こした米OpenAI社のSam Altman(サム・アルトマン)は、言語AIを活用してfly wheel効果を生み出した企業が、それぞれの業界に君臨するようになると予測している。「中にはGoogleを超えるような大企業も誕生することだろう」と語っている。
fly wheelとは「はずみ車」のことで、はずみ車とは一度回転し始めると回転に弾みがつく仕組みだ。fly wheel効果とはデータが増えれば増えるほど、AIが賢くなっていく現象のことを意味しており、ぐるぐるモデルのことを指している。つまりぐるぐるモデルがこれからの企業の成功の法則になるという話だ。逆に言えばAIのぐるぐるモデルを回せない企業は、周りの企業が収益を指数関数的に伸ばしていく中で、競争に負けてしまうということだ。
生成AIの登場で、全ての企業はAIファースト・カンパニーになっていく。企業の価値創造活動は、この方向で進化していくことは間違いない。著者の2人の教授が宣言したように、企業の価値創造活動の仕方が、大量生産時代とはまったく異なるものになろうとしている。生成AIの登場で、その動きは今後加速していくことになりそうだ。
『AIファースト・カンパニー』はハーバード・ビジネス・スクール教授が、医療系スタートアップからアマゾンやマイクロソフトまで、さまざまな企業の事例を分析。その成功と失敗を具体的に解説した名著だ(エクサウィザーズのWebサイトより
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