上前さんは、富士通の担当者に現状の課題を伝えたところ「AIソリューションで解決できそうだ」という回答を得て、19年9月にプロジェクトが動き始めた。
プロジェクトの推進にあたり、上前さんらが強く意識したのは、単に段ボールの破損判定システムを開発するのではなく、流通業務全般のDXにつながる仕組みを新しく構築する、という点だった。サントリー1社だけでなく、業界全体を巻き込んで破損判定の標準化を目指した。
実際に、どのようなシステムを構築したのか。
富士通が開発したのは、スマートフォンを使って段ボールの破損判定ができる専用アプリ。従来は現場の担当者が目視で行っていた段ボールの出荷可否の判断を、ディープラーニングで自動化する方法だ。
まず、現場の担当者がアプリで段ボールを撮影する。その後、画像解析によって「破れ」「胴膨れ」「角つぶれ」などと破損状況が分類される。その結果を過去のデータと照らし合わせ、5枚の類似画像が過去の出荷可否の判定結果とともに表示される。
担当者は、過去の判定結果を参照しながら、出荷可否を判断する――という仕組みだ。
まずはサントリーの三郷倉庫(埼玉県三郷市)で実証実験を開始し、破損した段ボールの写真を撮ってサンプルを収集。現場の担当者の意見を拾い上げ、判定結果をフィードバックする作業を繰り返した。
現在も、AIによる破損の判定精度を高めるため、サンプル写真を多く集めている。これまでに集めたのは約3000枚。今後5000枚程度まで増やしていく方針だという。
こうしたAI精度の向上と判定基準の業界標準化を目指し、サントリーと富士通は6月から、キリンビバレッジ、コカ・コーラ ボトラーズジャパン、セブン-イレブン・ジャパンの計5社で共同実証実験をスタート。引き続き、多くの製造・配送・販売に関わる企業に取り組みへの参画を呼び掛け、24年9月末まで実証するとしている。
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