最初に、以下の写真を見てほしい。ペットボトルや缶の飲料商品を梱包(こんぽう)している段ボールに、所々、擦れやへこみの傷が見られる。
これらの傷は倉庫出荷やトラックの配送時に付いたものだ。中の商品自体に影響はない。それでも、現場で「出荷NG」と判断される。このように、段ボールの傷だけで中の商品ごと返品・廃棄されるケースが後を絶たないという。
飲料大手のサントリーは課題を解決すべく、富士通と手を組み、今年(2023年)から業界全体を巻き込んだある取り組みを始めた。それは、返品の判断基準を現場の担当者の勘や経験知だけに頼るのではなく、AI(人工知能)を用いて標準・統一化することだ。
なぜこうした返品が起きるか。新たな取り組みで、どのような効果を見込めるのか。
「納入先からクレームを受けるかもしれない」
「得意先には見た目のきれいなものだけを届けたい」
サントリー、サプライチェーン本部の上前英幸さんは、例えば上記のような理由で、流通現場の担当者が梱包段ボールのわずかな破損で返品を決めてしまうケースを長年、目にしてきたという。
清涼飲料業界や流通業界では、輸送・保管中の梱包段ボールに傷があった場合、出荷可否の判断は、担当者の目視で行っている。判断のばらつきをなくすため、経産省や農水省、食品メーカーなどでつくる「飲料配送研究会」が2019年から段ボール破損の許容範囲について判断基準を提唱しているが、広く認知されているわけではない。
ひとたび返品となれば、影響は食品ロスにとどまらない。現場で担当者間の手続きなどが発生し、トラックドライバーの待機時間が長引く「輸送ロス」が発生する。さらに、梱包のやり直しといった「作業ロス」も発生する。
テクノロジーを用いた課題解決を模索しつつも、現場の状況はデータ化されておらず、システム導入で解決を図るにもROI(投資対効果)が明確ではない。上前さんの課題意識は中々マネジメント層に浸透しなかった。
そんな中、ドライバーの残業時間規制で人手不足に陥る「2024年問題」に世間の関心が高まり、課題解決に向けたプロジェクトの始動を後押しした。
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