デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
新連載の第1回「巨大な店舗で『ダラダラ仕事』 それでも米国小売業が成長できるワケ」では、ウォルマートをはじめとする世界有数の大手小売業は、DXやdigital transformation(デジタル・トランスフォーメーション)という単語をあまり使っていないと書きました。日本でDXが長くバズワード化しているのは、日本企業の多くがDXに成功していないからこそだろう――と。
連載第2回は、そもそも論として、DXの定義から話を始めたいと思います。
DXという言葉が最初に登場したのは、2004年のことです。スウェーデンのウメオ大学教授であるエリック・ストルターマンらが論文「Information Technology and the Good Life」の中で、DXを「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と定義したことが始まりだと言われています。DXは生活者を中心に定義されたものなのです。
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式Twitter:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0』
日本では、経済産業省がDXのビジネス活用を推進するために、18年にDX推進ガイドラインを策定しました。ここでのDXは以下のように定義されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
省庁が策定する定義は長くて頭にスッと入ってきにくいものが多いですよね。こういう時は、目的と手段に分けると明快になります。
DXの目的は「顧客や社会のニーズをもとに、競争上の優位性を確立すること」であり、それを実現する手段として「データとデジタル技術を活用して、製品・サービス・ビジネスモデルだけでなく、企業の仕組みや風土も含めて変革する」――。
「データとデジタル技術の活用をした変革」は手段です。連載第1回で書いた品出し効率を上げる仕組みの大部分は、必ずしもデータやデジタル技術を必要とはしません。しかし、それらを活用する企業とそうでない企業では、競争上の優位性有無が大きく異なるのです。一体どんな差が生まれるのか、事例を基に見てみましょう。
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