太子町・河南町・千早赤坂村はどうだろうか。
太子町の人口は05年に最大となる1万4573人を数えたが、減少に転じて22年には1万2935人となった。河南町の人口も05年の1万7545人をピークに、23年10月末時点で1万4832人に減少している。千早赤阪村の人口がピークを迎えたのは、1985年で7697人。村が公表している数値では、2020年時点で4909人となった。
このように、金剛バスがカバーしている南河内の市町村は、いずれも過疎化している。人口が減る一方で、地域内の路線バスを使ってもらえるような有効な施策が講じられなかったことに、事業を廃止せざるを得ない遠因があったと考えられる。
千早赤阪村にある金剛山は標高1125メートル。奈良県との府県境にあるが、大阪府側から登るのが一般的だ。近畿では最も登山者数が多い山で、年間100万人が登るという説もある。金剛バスでは金剛山ロープウェイの駅前・千早ロープウェイ前停留所まで概ね1時間に1本運行してきた。しかし、19年3月に肝心のロープウェイが運航停止し、そのまま廃止されてしまった。
ロープウェイを運営してきた千早赤阪村役場によると「1966年に開業し、耐震性に問題があるなど老朽化していた。ずっと赤字続きで、改修してまで続ける意味はない」とのことで、復活する予定はない。
しかし、果たしてそうだろうか。年間300万人が登るとされる高尾山は、ケーブルカーの駅前にそば店が立ち並び、山上駅に隣接するビアガーデンもある。高尾山の場合、新宿から直通する京王線の高尾山口駅がケーブルカーの山麓駅のすぐ近くまで乗り入れていて、圧倒的な利便性がある。そして、小さな子どもから老人まで登山を楽しんでもらってにぎわいを創出しようという、地域の強い意思を感じる。
金剛山も大都会からのアクセスの良さでは、そう負けてはいない。近鉄・大阪阿部野橋駅から富田林駅までは電車で30分もかからない。ところが、ほとんどの人はクルマでやってくる。村でも道の駅をつくるなど、観光の努力をしている。ロープウェイさえあれば小さな子どもから老人まで、登山をより楽しめるはずだ。高尾山がミシュラン3つ星の観光地なら、金剛山も同等の評価を受けるポテンシャルはあるのに、もったいないと感じる。
今回の金剛バスの廃業に代わって路線バスを運行する近鉄バスでは、途中の赤阪中学校前停留所止まりとなる。その先の金剛登山口停留所までは、村営バスへの乗り換えが必要となった。さらに先にある現在の終点・千早ロープウェイ前停留所へは、南隣の河内長野市にある河内長野駅前から出ている南海バスに金剛登山口停留所で乗り換えて、アクセスすることになる。
つまり、12月21日以降は金剛登山口停留所や千早ロープウェイ前停留所から登山をしたい人が路線バスを使う場合、河内長野駅からは1本で行けるが、富田林駅からは行けなくなってしまう。これは富田林駅が金剛山へのアクセス駅としての権利を放棄したかに映る。旧ロープウェイの近くで、マスの釣場とレストランを営む「BIG FIGHT FISHING 千早川 Mt.KONGO」の従業員は「バスの本数が減るのは、ありがたくない」と残念そうだった。
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