豊田社長の“あの時の話”を詳しく明かそう 2023年に読まれた記事池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2023年12月25日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

話の詳細をここで明かそう

 ちなみに時系列の話でいうと、この記事が掲載されたのは今年の元日だが、豊田社長はそれからすぐの1月26日に退任を表明して、会長職に退いた。

 話を元に戻そう。そうしてトヨタへの風当たりの情勢が多少なりとも変わり、豊田氏が社長職を退いた今なら、あの時少し婉曲にした部分をもっとストレートに書いても許されると思って、インタビューの一部をテキスト化する。

 本当のことを書くのはいつだって怖い。ネットのあっちこっちで、筆者もまた毎回しつこく絡まれる。ほぼストーカーだといっていいだろう。「メーカーへの忖度(そんたく)だ」と言われるが、むしろ忖度を強いてくるのはメーカーではなくこういう輩(やから)だ。書き手当人も大変だが、同時に、というかそれ以上に、今、自動車産業全体、ひいては日本経済の振興に頑張っているトヨタにも豊田会長にも必要以上の逆風は吹かせたくない。そのあたりはむしろここから先で起こしたテキストを見てもらえばより分かると思う。ということでようやくインタビューの文字起こしである。

 日本は規制規制でやりたいこともやらせてくれない環境がいっぱいあります。タイは政府も含めてウェルカム、一緒にやろうと。そうすると民間の力と政府の力と世論の力が一緒になって未来を作っていくと思うんです。彼らに共通しているのは「自分以外の誰かのために」と思っている環境があるんだと思います。翻って、日本は、「自分のために」という人の声がちょっと大きくなりすぎていると思いますね。自分の考えがこうなんだから、それ以外はダメっていうのがね、ほんとに大きすぎるような気がするんですよね。

 そうじゃなくて、「自分以外の誰かのために」な人たちが、正解は分からなくても(著者注:未来が完全に分かる人など誰もいない)、行動をし、何かやり始めれば、 未来の景色は必ず変わるはずなんです。それがタイではできる。となると、逆に550万人の一部が、タイをベースに(頑張れば)カーボンニュートラルの新しいモビリティ社会が作れるように思うんです。そうやって大きな変化がこちらで起これば、ひょっとすると、日本は抜かれますね。

 正直な話、日本でせこせこ頭を下げまくり、批判も受けながら、ちまちまやってることにも疲れましたよ。ヨーロッパでも(筆者注:水素ラリーカーが大変好意的に受け止められた)、タイに来てもこうなんだと思うと、人間ですからね、 自分が必要とされるとこに行きたくなります。一生懸命頑張ってやっても貶(けな)されるところで、なんで頭を下げて、やってなきゃいけないんですかと。

 ボク自身は、すごいジャパンLOVEな人間なんですよ。そのジャパンLOVEの人間がこんな発言をしてることをね、ちょっと危機感として感じた方がいいと思いますね。

トヨタの豊田章男社長(左)とタイCPのスパキット会長(当時)

 さて、このタイでの取り組みについて、ほぼ1年後の12月19日、この1年間で成し遂げた協業の実績について、トヨタから発表があった。リリースの一部を抜粋しよう。

 タイ国民6700万人の幸せに向け、「想いを同じくする仲間とみんなで、今すぐできることをする」を合言葉に、データ、モビリティ、エネルギーの3つの領域で、取り組みを進めてきました。

 「データソリューション」では、CP(Charoen Pokphand Group)とSCG(Siam Cement Group)の小売・物流ビッグデータと、交通流・車両データを活用した積載効率向上や配送ルート最適化により、実証店舗で約15%のCO2を「今すぐ」削減。「モビリティソリューション」では、FCトラック、Hilux Revo BEV concept、JPN TAXI LPG-HEV、商用軽バン等、タイでの使われ方に応じた様々な車両を導入した物流・人流の実証にて約68トン/年のCO2削減効果を確認。肥料散布用FCドローンの飛行実証にも成功いたしました。また、「エネルギーソリューション」では、「タイならでは」の資源を有効に活用すべく、Charoen Pokphand Foods養鶏場の糞尿やトヨタ拠点での廃棄食料由来のバイオガスから水素を製造する装置をタイに初めて導入し、FCトラックやFCドローンの燃料として活用しました(レース車両への活用も12月末予定)。さらに、太陽光発電や蓄電池システムを活用した拠点内エネルギーマネジメントも実行計画化しました。

 今後、タイでの使われ方に応じた「マルチパスウェイ」の考え方の下、FCEV/BEVの導入に加え、タイ社会で、今求められるHEVや「軽」自動車でもカーボンニュートラルに貢献するとともに、タイの資源や使われ方に応じた再エネの利用で、「つくる」「はこぶ」「つかう」一体となったエネルギー効率向上・コスト低減を図ってまいります。

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