「吉祥寺」「湘南」「軽井沢」どこからどこまで論争 お店や施設を可視化してみたデータに隠された真実(4/4 ページ)

» 2024年01月05日 09時00分 公開
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どこまでが「吉祥寺」と言える?

 もう少し狭い範囲のブランド地名を見てみましょう。

 東京・多摩地区(23区以外のエリア)で有数の商業エリア、吉祥寺。都心への通勤利便性や住環境にもすぐれ、住まいとしてもお出かけ先としても人気の街ですが、吉祥寺駅から離れたところでも「吉祥寺」を名乗るお店を見かけることがあります。

 こうした店舗や施設を地図にすると、吉祥寺駅前だけでなく、吉祥寺駅から2kmほど離れたところにまで「吉祥寺」が広がっていることがわかります(図5)。

 三鷹駅(三鷹市)、武蔵関駅(練馬区)の近くや、三鷹の森ジブリ美術館のある下連雀エリア(三鷹市)などです。この地域を「吉祥寺通り」という主要道路が貫いている点を少し割り引く必要がありますが、西武新宿線に近いところや三鷹市役所の近くにも「吉祥寺」と名のつく建物が点在しているのを見ると、吉祥寺の駅勢圏(人を集める範囲)の広さやブランド力の強さを再認識させられます。

 このようにブランド地名を地図に表してみると、土地の名前が指し示す範囲は厳密に決められたものではなく、グラデーション(色などの濃淡がなだらかに変化するさま)を描きながらゆるやかに変わっていくことがわかります。

 地理学や地名学の専門家の中には、有名観光地やブランド力のある地名を「勝手に」名乗ることを「僭称(せんしょう)地名」「キラキラ地名」と呼んで批判する向きもあるのですが、湘南のようにもともと定義があいまいだった地名であれば、ギリギリセーフといったところでしょうか。土地の名前は時代とともに変化していくものですから、その変化を楽しむ気持ちを持っていたいものです。

参考(1):Yahoo! JAPAN『Yahoo! ローカルサーチAPI

参考(3):図1、2、3、4、5の背景に国土地理院『地理院地図Vector(仮称)提供実験』のデータを使用

この記事は、『ビジュアルでわかる日本』(にゃんこそば、宮路 秀作/SBクリエイティブ)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。


プロフィール:

著者:にゃんこそば

たびたび地図をテーマにしたツイートをバズらせており、雑学的アプローチが得意。X(旧ツイッター)のアカウント

監修 宮路 秀作(みやじ しゅうさく)

代々木ゼミナール地理講師。日本地理学会企画専門委員会委員コラムニスト。Yahoo! ニュース個人オーサー。日本地理学会賞(社会貢献部門)受賞。主な著書は『経済は統計から学べ!』『経済は地理から学べ!』『目からウロコのなるほど地理講義』。 X(旧Twitter)のアカウント


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