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「朝会に通勤電車からリモート参加」する部下 遅刻扱いにはならないの?Q&A 社労士に聞く、現場のギモン

» 2024年01月23日 07時00分 公開
[近藤留美ITmedia]

連載:Q&A 社労士に聞く、現場のギモン

働き方に対する現場の疑問を、社労士がQ&A形式で回答します。

Q: 毎朝のミーティングに、通勤電車からリモート参加する部下がいます。

 私の会社では、在宅と出社を掛け合わせたハイブリッドワークを採用していますが、その部下はまだ新人のため、週3日以上の出社を義務付けています。本来であれば始業時刻までに出社してほしいのですが、最近は通勤電車から朝会に出席し、始業30分〜1時間後になってやっと会社に到着をしています。

 注意しても「会議には参加している」「在宅の人と変わらない」と悪びれないため、対応に困っています。こうした行動は遅刻扱いにならないのでしょうか。また、この部下にどのように向き合えばいいでしょうか。

「朝会に通勤電車からリモート参加」する部下 遅刻扱いにはならないの?

画像提供:ゲッティイメージズ

A: まずは、会社で導入しているハイブリッドワークがどのような内容で定義づけられているのかをあらためて確認しましょう。

 具体的には、テレワークする場合の就業場所について、どのように制度化されているのかを確認する必要があります。

 一般的にテレワークの場所としては、労働者の自宅や、施設利用型としてのサテライトオフィス、モバイル勤務としての交通機関の車内、カフェなどが考えられます。

 例えば、外回りの営業職は外出することが多く、移動中などの交通機関の車内やカフェなどでも効率的に業務ができるケースもあります。社内に営業職が多く、効率的な業務で生産性の向上を狙う場合には、交通機関の車内やカフェなどもテレワークの就業場所として認められていることがあります。

 一方、企業によっては「業務に専念できる静かな作業環境とセキュリティの安全性が確保ができる場所」で働くように定め、自宅や会社(自社で契約した専用サテライトオフィスなども含む)以外は、就業場所として不適切としている場合もあります。

 会社のテレワーク規程に、就業場所として「交通機関の車内」が認められているかどうかをご確認ください。

確認したら、どうすべき?

 会社のハイブリッドワークの規程で、もともと就業場所として「交通機関の車内」が認められていないのであれば、問題となっている新人部下も含め、全ての社員にとって通勤電車の中からの会議参加は勤務として認められません。

 会社の規程で「交通機関の車内」もテレワークの就業場所として認められている場合は、さらにその規程が適用の対象となる労働者と、適用する際の条件を確認する必要があります。

 先ほども説明した通り「自宅やサテライトオフィス」と違って、カフェやホテル、移動中の「交通機関の車内」といった就業場所で業務を行ういわゆるモバイルワークに適している職種は、1日に何社も取引先や顧客へ訪問する外回りの営業職などが考えられます。

 営業職は外出や出張が多いため、ノートパソコンやタブレット、スマートフォンなどを使って、移動中に連絡を取り合ったり、社内システムにアクセスし提案資料を作成・共有したり、会議に参加したりできることで、そのスキマ時間を有効活用できるというメリットがあります。

 ただし、モバイルワークは情報漏えいなどのセキュリティリスクが高く、導入の際は徹底的に策を講じなければいけません。そのため、必要がなければ、リスクを負ってモバイルワークを導入すべきではないと考えられます。

 ご質問の企業で、「交通機関の車内」をモバイル勤務の就業場所として認める場合の要件など、適用の対象となる労働者の業務の内容がどのように定められているのかは、ご相談の内容だけでは分かりません。しかし少なくとも、本件の新人部下については、仮に営業職であったとしても、現時点では移動中の交通機関の車内やカフェなどで効率的に業務を行う必要性はないと考えられるのではないでしょうか

 従って、本件相談の対象となっている新人部下については、モバイルワークの適用対象と考えにくく、交通機関の車内から会議に参加することは認められないと、会社が主張することには、一定程度の合理性があると考えられます。

 その上で、遅刻扱いとするかどうかについては、会社の就業規則上の勤怠規定の定めに沿って対応されることが望ましいです。

 なお、このような就業場所の問題以外にも、テレワークについては、中抜けによる休憩の取り扱いの問題や長時間労働になる可能性が生じる問題など、注意しなければならない事柄が数多くあります。

 さらに、会社の業種、対象労働者の職種、業務内容、育児・介護・傷病などの状況により、在宅ワークやテレワーク勤務の適正な取り扱い方も異なります。会社として、適宜、具体的な状況に照らして適正に対応できるようにしたいものです。

著者:近藤留美 近藤事務所 特定社会保険労務士

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大学卒業後、小売業の会社で販売、接客業に携わる。転職後、結婚を機に退職し、長い間「働く」ことから離れていたが、下の子供の幼稚園入園を機に社会保険労務士の資格を取得し社会復帰を目指す。

平成23年から4年間、千葉と神奈川で労働局雇用均等室(現在の雇用環境均等部)の指導員として勤務し、主にセクハラ、マタハラなどの相談対応業務に従事する。平成27年、社会保険労務士事務所を開業。

現在は、顧問先の労務管理について助言や指導、就業規則等規程の整備、各種関係手続を行っている。

顧問先には、女性の社長や人事労務担当者が多いのも特徴で、育児や家庭、プライベートとの両立を図りながらキャリアアップを目指す同志のような気持ちで、ご相談に乗るよう心がけている。


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