メンバーにこの仕事を任せてみようと決めたら、本人にその指示を伝えます。この際、意外に多いのが、メンバーとの意思疎通が適切にできていないケースです。
例えば「難しい仕事だけどきっと成長につながるから」「私もサポートするから、一緒に頑張ってみよう」など、本人にやる気になってもらうための動機付けが重要なことは誰でも知っています。しかし、誰に対しても同じように伝えていては、その人のやる気を引き出すことはできません。
仕事を任せるメンバーは、そもそもどんなことに関心があり、何があればやってみようと思える人なのでしょうか。単に「成長につながるから」と言っても、それが本人にとって重要なことでなければ、動機付けとしては効果的ではありません。この仕事に取り組むことがどんなうれしいことにつながるのか、相手によってそのストーリーは異なるはずです。
そのようなストーリーを組み立てるためには、日頃からメンバーと雑談するなどして、その人の志向やこだわりを把握しておく必要があります。
また仕事の指示をする際には、上司としてこの仕事をやってほしいと一方的に伝えるだけでなく、本人はその仕事をどう思っているのか、気が進まないとしたら何が引っかかっているのかなど、本人の疑問や不安を解消することも必要です。
つまり、一方的に動機付けするのではなく、お互いにその仕事についての考えを出し合って「今回はこういう意味付けでこの仕事に取り組もう」「進める際にはこの点に気を付けよう」と相互に合意することが重要なのです。
このように仕事に取り組む意味を合意しておくことは、その後も仕事を進める際の判断や振り返りの基準となり、大変役立ちます。
本人との合意を経て仕事を任せてみたものの、やはりうまく進まないというケースは多々あります。未経験や高難度の仕事がうまくいかないのはある意味で当然のことですが、ここで上司の側がこらえ切れずに必要以上に介入してしまうという話もよく聞きます。
多くの場合、上司は良かれと思って仕事を巻き取るのですが、実は任せた仕事にむやみに手や口を出すことは、任されたメンバーの主体性を損なうことにつながります。
待っていれば上司が何とかしてくれるに違いない、自分には分からないから上司に決めてもらえばいい、と常に上司を頼るようになり、自分自身が責任を持ってやり遂げなければならないという意識が薄れてしまうのです。
もちろん、メンバーがアドバイスを求めてきたらそれに応じることは必要です。知識や慣例など、聞けばすぐに分かるようなことはどんどん教えてあげるのがよいでしょう。
でも、必ずしもやり方が1つでないことや正解がないことについてまで、先に答えを出してしまうことは、メンバーの考える機会を奪うことにもつながります。メンバーが自分自身で考えた方法で対処するのを見守り、サポートに徹することに、ぜひ挑戦してみてください。
ここまで、メンバーに仕事を任せる際のポイントを見てきました。
最も重要なのは、「この人にはできないだろう」「自分の意見・やり方が一番良いはずだ」といった、今当たり前に正しいと思っている前提があるならそれを一度保留して、本当にそうなのか? と問い直す癖をつけることです。
また、メンバー一人一人をよく見て、その人に合わせて、仕事そのものや指示の出し方、進め方などをデザインしていくことも大切です。
自分でやった方が早いという気持ちを我慢して仕事を任せることは、管理職にとってもチャレンジです。その経験を通して、メンバーの成長だけでなくご自身の管理職としての成長も実現できるといいですね。
リクルートマネジメントソリューションズ HRDサービス開発部主任研究員。広告業界などを経て2008年に入社し、以来一貫して企業向け研修など人材育成サービスの企画に従事。新入社員〜管理職まで、幅広い領域の企業研修の企画を担当。マネジメントやリーダーシップ、学習や成長といったテーマでの調査・研究も行っている。
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