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武尊を大谷翔平のような世界的スターに 格闘技団体「ONE」が見いだした日本市場の魅力

» 2024年01月26日 18時58分 公開
[武田信晃ITmedia]

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 シンガポールに拠点を置く、世界有数の格闘技団体「ONE Championship」は1月28日、東京・有明アリーナで格闘技イベント「ONE 165 : Superlek vs. Takeru」を開催する。メインイベントは、ONEフライ級キックボクシング世界チャンピオンのスーパーレック・キアトモー9に、ONEのデビュー戦となるK-1世界3階級制覇王者の武尊が挑戦するタイトルマッチだ。

「ONE Championship」は1月28日、東京・有明アリーナで格闘技イベント「ONE 165 : Superlek vs. Takeru」を開催(以下写真はONE Championship提供)

 同大会は、サイバーエージェントが運営する動画配信サービス「ABEMA」のPPVで国内独占生配信する。Amazonと並ぶ一大経済圏を作っている楽天の子会社、楽天チケットと提携し、外部の力を取り入れている。日本での開催はコロナ禍以前の2019年10月に開催した両国大会以来4年3カ月ぶりだ。ONE Championshipのチャトリ・シットヨートンCEOに、今大会に向けての意気込みを聞いた。

ONE Championshipのチャトリ・シットヨートンCEO

過去最大の日本大会 アジア市場にアピール

 チャトリCEOは、今大会が、過去のONEの日本大会でも最大規模だと胸を張る。第一試合の試合開始は午後5時だ。

 「アジアのゴールデンタイムに合わせて放送します」と市場規模が大きいアジア市場にアピールしたい狙いを語る。

 実は東京ドームでの開催も視野に入れたものの、新型コロナの影響でしばらくの間、日本で興業をしていないことから、有明アリーナでの開催にしたと明かす。

 「4年以上もイベントをしていなかったので、客の入りが未知数なところが少しありました。24年は計2回、ONEを日本で開催したいと考えていますが、まずはキャパシティが1万5000人ぐらいの有明でやろうと思いました。2回目は、正式な日付を、まだアナウンスできませんが、夏にやります」

 夏の大会が東京ドームになるのかも気になるところだ。有明大会のチケット販売は楽天チケットが手掛ける。楽天側に今回のビジネス的な狙いを聞くと、格闘技ビジネスの可能性に期待しているようだ。

 「楽天チケットは、ONE Championshipさまとのパートナーシップを通じて、世界のトップ選手を日本に招待するだけではなく、日本中のファンに驚きと喜びを与えられるような革新的な格闘技体験を提供することを目指したいという思いから、本取り組みを実施しました」

 有明アリーナはもちろん東京ドームより収容人数が少ない。カバーするのはABEMAによるPPVだ。リアル会場は収容人数に限界がある一方、PPVにはリミットがない。チャトリCEOはPPVでの成功を期待している。

 「ラッキーでした。ABEMA、楽天チケット、ONE、NSN(Never Say Never。スペインの世界的サッカー選手、アンドレス・イニエスタが共同創業者でもあるスポーツマネジメント企業)が共同でマーケティングをすれば、(那須川天心対武尊戦の)THE MATCH 2022レベルの関心の高さになると思っています。

 THE MATCH 2022は東京という日本で一番大きい街での大会でした。当社は格闘技関係では大きな会社ですが、有明大会は190カ国・地域で配信されますから、世界の人がより関心を持つ大会になるでしょう」

 ドメスティックなTHE MATCH 2022と、グローバルなONEの違いを強調した。

武尊を大谷翔平のような世界的スターに

 格闘技は、野球、サッカーと比べて子どもがあまり見ず、メジャースポーツとは言い難い。そんな日本の格闘技市場を、チャトリCEOはどのように見ているのか。

 「世界ではサッカーが最も大きなスポーツですよね。バスケットボールや野球も大きな市場を持ちますが、ファンのベースは年1〜2%の成長しかないのです。しかし、世界最大の格闘技団体のUFCを見ると、2桁から3桁の成長を遂げていますし、23年のONEの視聴者数は、前年比で300%増でした。すごい上昇カーブを描いているのです。メジャースポーツは横ばいという感じですが、格闘技は5年後、10年後、15年後には、同じような市場規模に成長できると思っています」

 賛否両論があるものの、日本で話題になっている格闘技イベント「BreakingDown」のことは「知らない」という。世界を相手に「セメント/ガチンコ」(八百長ではない「真剣勝負」を意味する隠語)の大会を開催している団体のCEOとしては、当然の反応だった。

 「ABEMAと話し合ったときの大きな問題は、日本人選手がONEに出場したとき、なかなか勝てないことや、なかなかONEのチャンピオンになれないことでした。ONEには10年の歴史があり、これまで日本の良い選手はたくさんいて、出場してきました。だけどなかなかチャンピオンにはなれなかった。立ち技やMMA(総合格闘技)において、日本のレベルはベストではないのです」

 日本人では秋元皓貴が22年にONEの立ち技部門「ONEスーパーシリーズ」で、初の日本人王者(バンタム級)に輝いたものの、防衛はしていない。

ABEMAによると日本人はこれまでに97人が参戦。360戦178戦180敗、勝率49%と負け越している。「世界は甘くはない」ということだ。それでも、チャトリCEOは武尊に大きな期待を寄せている。

 「日本人の格闘家で世界的なヒーローは、まだ現れていません。大谷翔平がMLBに向かったとき、日本でベストプレーヤーだったものの、まだ世界でどのくらいベストなのか分からなかった。でも今、世界は、彼がベスト・オブ・ベストだということを知っています。武尊も日本のトップですが、世界でどの程度なのかまだ分かりません。ファンの人は、武尊がベスト・オブ・ベストになっていく姿を見たいのではないでしょうか。『彼ならできる』という気持ちを持っているファンも多いでしょうし、私も武尊が成功できると思いますよ」

 ONEを通じて世界に羽ばたいてほしいという気持ちが伝わる。

 「THE MATCH 2022によって天心と武尊のファンが増えましたよね。武尊がチャンピオンになったら、世界で有名になり、もっとファンがつきます。ONEの日本での格闘技ビジネスもより大きくなってくれるはずです」

 武尊の成功は、ONEの日本市場進出の大きな試金石となる。

 「今回はABEMA、楽天チケット、NSNに感謝したいです。4年前は全て、自分たちで運営をしていました。しかし、ONEを含めた4社が一緒になって世界レベルの格闘技大会を作り、盛り上げたいです。4年前に『第1ラウンド』が始まったと思ったら、新型コロナでKO負けしました。今回の『第2ラウンド』には大きな希望を持っています。『4社と武尊』という“成功するための駒”がそろったからです。将来に向けての新しいスタートが切れます。先ほど24年は2回、日本開催をすると言いましたが、多ければ4回やりたいです」

 日本市場に大きな期待を寄せているようだ。そこまで開催回数を増やすならば、ある程度は日本人選手を多く起用しないと日本市場で成功する確率が下がりそうだ。

 「日本人で5人ぐらいかな、ベストになるポテンシャルを秘めた選手がいます。すでにONEと契約した選手も何人かいます」

 

人を雇うとき「尊厳とPhD」を重視

 チャトリCEOはハーバード大学卒でMBAも取得している。ONEを立ち上げる前はウォール街で自らヘッジファンドを経営し、世界中に投資をしてきた。

 「そのときの経験が今に生きています。個人的には38年間、マーシャルアーツもやってきました。これらの要素があったおかげで、私に投資をしてくれる人もいました」

 それまで培ってきたことが全てONEにつながっている。日本のビジネスで注目しているものや、関心がある日本企業はあるのかを聞いてみた。

 「素晴らしい企業はたくさん存在していますよね。それこそ楽天の三木谷さんはハードワーカーで、起業家としてゼロから楽天をここまで大きくしたのですから尊敬しています。ソフトバンクの孫さんも同じです」

 現在、ONEの正社員は200人、パートタイムを含めると400人が働いている。ちなみに日本最大のプロレス団体である新日本プロレスで70人、RIZINを運営するドリームファクトリーワールドワイドで20人だ。

 ONEによれば同社の企業価値は14億ドルに達していて、世界的に事業を展開するONEと、日本国内だけで興業をしてきた各団体では、これだけ会社の規模にも差が生まれる。

 経営者として重視していることは「特に人を雇い入れるとき2つのことを大事にしています。尊厳とPhD(Poor、Hungry、Determinedの頭文字で博士号のことではない。誠実で、情熱を持ち、ハングリー精神があり、武士のように決然としていること)です。ある意味、普通の仕事では物足りない人です。従業員はみんなチャレンジ精神が旺盛な人ばかりですよ」

 出る杭を打ったり、空気を読む人間を重宝したりする日系企業とは社風が異なるようだ。

 日本での当面の目標は「日本の野球やJリーグよりONEを有名にしたいですね」と夢は大きい。「なぜかと言いますと、日本には柔道、剣道、空手、相撲などがある武士道の国だからです」と話し、格闘技が日本の文化に組み込まれているからだという。実際に実現できるかどうかは、日本独特の商習慣をこえて、彼の培ってきた経営能力がどれだけ発揮されるかにかかっている。

 

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