「真冬の5合目に電車で行ける」 富士登山鉄道に賛否両論杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/7 ページ)

» 2024年01月27日 09時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

電動バスの検証も必要

 富士吉田市は「電動バスのほうが実用的」という考え方だ。道路はそのまま使えるし、専用道としてマイカーと観光バスを締め出せば良い。マイカー規制でもBEV(蓄電池車)とFCV(燃料電池車)はマイカー規制の対象外(ハイブリッドは規制)だった。電気トラックが実用化すれば物資輸送もできる。

  山梨県は電動バスが向かない理由として「輸送量」「マイクロプラスチック」「エネルギー効率」「通行規制」などを挙げている。「輸送量」については、前出のLRTの座席数120、25編成、1日当たり152便と同じにするためには、バスの座席数25、104台、731便が必要になる。LRTの4倍の運転手が必要になり、バスは1分に1台発車するダイヤになる。バスの立ち客も含めると、定員77、33台、237便になるけれども、立ち乗り満員は安全とはいえないし、観光の質を考えると世界標準とはいえない。

山梨県は「バスでは不十分」と事実上の反論(山梨県による住民説明会、配付資料より)

 「マイクロプラスチック」はタイヤカスである。欧州などでタイヤ粉塵に含まれるマイクロプラスチックが問題になっているそうだ。マイクロプラスチックは海洋汚染だけではなく、ペットボトル飲料にも含まれていることが問題になっており、摂取した人の血管に含まれていた事例もあったという。もっとも、鉄輪式鉄道もごく微量ながら鉄粉が出る。

 「エルネルギー効率」は輸送人員1人当たりのバッテリー搭載量を問題としている。LRTは鉄輪式のためエネルギー消費量が少なく、下りのときに回生ブレーキでエネルギーを回収できる。電動バスも回生ブレーキを使えるけれども、長距離の坂を下るため、すべてのエネルギーを回収するためには大容量で重いバッテリーが必要になる。

 「通行規制」についてはどうか。道路法、道路交通法によって法令に規定される理由がない限り、自動車の通行を規制できない。現状でもタクシーや観光バスはマイカー規制の対象外だ。電動バスはバスである限り、現在と状況が変わらないという。軌道法では路面電車の優先が認められる。

 このほか、LRTのほうがバスよりも、乗り心地の上質感、年間を通じた走行、観光のシンボル性などで優位だという。

バスの排除によって、広大な駐車場を自然回帰する(山梨県による住民説明会、配付資料より)

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