『セクシー田中さん』の悲劇で加速する 日本マンガ実写化ビジネスの海外流出スピン経済の歩き方(4/8 ページ)

» 2024年01月31日 06時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

もし日本で制作していたら

 厳しい言い方だが、もし日本で制作していたらこういうことにはならなかっただろう。テレビ局と映画配給会社、広告代理店による「ワンピース制作委員会」が立ち上げられて、メディアミックスの名のもとで横断的なプロモーションやキャンペーンが行われる一方、尾田氏の「原作が正しく映像化される」ことはそれほど尊重されなかったはずだ。

 まず、キャスティングが無理だ。観客動員数が欲しいということで、主要キャラである「麦わらの一味」の半分くらいはSMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)所属のアイドルになっていたかもしれない。漫画の実写化作品でおなじみの役者も入っていただろう。ストーリーや演出に関しても、関係各位の「オトナの事情」から、尾田氏の意向はそこまで反映されなかったはずだ。

 そのような日本のエンタメ業界のシビアな現実を踏まえれば、尾田氏の「実写版は海外と組む」という決断は大成功と言わざるを得ない。実際、この成功パターンの後に続けと言わんばかりに、堀越耕平氏の人気漫画『僕のヒーローアカデミア』(集英社)も、ハリウッド版『GODZILLA』で知られる米レジェンダリー・ピクチャーズでの実写版製作が進行している。

『僕のヒーローアカデミア』(出典:集英社『少年ジャンプ』公式Webサイト)

 また、組むのはハリウッドだけではない。例えば、お隣の国・韓国ではもともと日本の漫画は人気で多くの実写化実績もある。22年7月に放送をスタートしたドラマ『今日のウェブトゥーン』は、松田奈緒子氏の人気漫画『重版出来!』(小学館)が原作だ。

 少し前には、日本の漫画ファンが多いことで知られるフランスでも『シティーハンター』(集英社)が映画化された。東京・新宿を舞台にした原作を、フランスを舞台にフランス人が演じたのだ。日本では当初イロモノ扱いされたが、視聴してみると、原作への愛が随所にあふれていたこともあって、ファンはもちろん、そうではない一般の映画ファンからも好意的な反応だった。

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