『セクシー田中さん』の悲劇で加速する 日本マンガ実写化ビジネスの海外流出スピン経済の歩き方(7/8 ページ)

» 2024年01月31日 06時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

それでも続く「組織の病」

 さて、このような話をすると、「なぜ尾田氏のようなスター漫画家にも見切りをつけられているのに、日本のテレビドラマや映画関係者は原作者をリスペクトしないのか」と首を傾げる人も多いだろう。

 ただ、これは現場にいる個々の人が悪いわけではなく、「組織の病」という側面が強い。

日本テレビは哀悼コメントを掲載したが……(出典:AC)

 日本のテレビドラマというのは芸能事務所の「ウチのタレントにこんな役を」という要望、テレビ局のお偉いさんの「データ的にも今はこんなストーリーがウケるだろ」という組織内圧力、さらには広告スポンサーから「確実に数字の取れるものを」という至上命令などをうまく利害調整しながら制作していく。

 そういう「妥協の産物」の中で、演出家や脚本家というドラマ制作スタッフたちはなんとか「いい作品」を生み出そうと努力をしている。当然、信念を曲げることもある。「こだわり」を捨てなくてはいけないこともある。組織の中で何かを実現させるには、「しょうがないことだ」と自分に言い聞かせている。

「組織の病」がはびこる日本のドラマ制作の現場(提供:写真AC)

 そういう我慢と妥協が骨身に染みているクリエーターは、巨大プロジェクトに参加する全ての人に同じような我慢と妥協を強いる。なんともバカバカしい話だが、それがたとえ作品の造物主である「原作者」であったとしても、そういう力学が働いてしまう。日本型企業のプロジェクトには「オレがこんなに辛い思いをしているんだからお前らも同じように苦しめ」という体育会系的な平等思想がまん延しているのだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.