J1リーグ「FC町田ゼルビア」がAI活用 「リピート来場の壁」突破へ データで導く“集客UP策”をビジネス軸で見る

» 2024年02月01日 10時00分 公開
[PR/ITmedia]
PR

 「ピーー」という甲高いホイッスルと同時に、約6分間のアディショナルタイムが終わった。それはサッカー「Jリーグ」に新たな歴史が刻まれた瞬間だった。2023年10月22日、少年サッカーチームから生まれたプロサッカークラブ「FC町田ゼルビア」(東京都町田市)が悲願のJ1初昇格を決めた。クラブ誕生から34年越しに達成した快挙。選手たちが円陣を組んで喜び、サポーターが沸き立つ様子が中継された。

 この偉業は選手やサポーター、ファン、そしてチームを支えてきたスタッフの熱意によるものだ。勝利の裏側を取材すると、AIを駆使してマーケティングを進化させ、チームに貢献しようと奮闘するスタッフの姿があった。

 「ホームスタジアムに来場するファンを増やそうと、AIによるデータ分析にチャレンジしました。狙いは2つの軸の強化です。ファンを集めてスタジアムを盛り上げ、J1昇格に向けて勝てる雰囲気を醸成する『フットボール軸』。そして、チケットやグッズ販売などによる収益を確保するほか、パートナー企業からの信頼を高め、経営基盤を安定させる『ビジネス軸』です」――FC町田ゼルビアでマーケティングを担当する田口智基氏はこう話す。

 FC町田ゼルビアは、17年からJリーグの会員データを受け取っていたものの、クラブ内にデータサイエンティストなど高度な専門人材はおらず、膨大な情報資産の恩恵を生かし切れずにいた。そこで中堅・中小企業のAI活用をサポートする大塚商会の力を借り、AIサービス「dotData」を使ってデータ分析を手探りで一歩ずつ進めたところ、マーケティングの土台をさらに固められた。その軌跡をたどると、マーケティングや集客施策など一般企業のビジネスにも応用できるノウハウが見えてきた。

photo J1昇格を果たしたFC町田ゼルビア

来場者数はクラブ価値の指標 ファンが多ければ「ドラマチックなことが起きる」

 FC町田ゼルビアがJリーグに加盟したのは12年。1977年に誕生した少年サッカーチームを母体とし、少年たちの成長に合わせて規模を拡大。89年に社会人のトップチームが誕生した。しかし、その後の道のりは平たんなものではなかった。スタジアム基準を満たせずJ2昇格を逃したり、史上初のJリーグからアマチュアリーグへの降格を経験したりと、いばらの道を歩んできた。

 それでもFC町田ゼルビアは折れなかった。市民の力で作り上げてきたという出自がクラブの誇るべきアイデンティティーであり、原動力だ。市民やファンの期待に応えるため、クラブ経営を盤石にして選手を応援しようという気概が事業部スタッフにも根付いている。

 FC町田ゼルビアのように、各クラブが地道にファンを増やしてきたからこそ、Jリーグが発展してきた。その成長をさらに加速させたのが、17年に導入されたJリーグの会員サービス「JリーグID」だ。国民的サッカーリーグであるJリーグの年間総入場者数は、19年時点で1100万人を超える。その会員データを使うことで、クラブごとにデータドリブンなデジタルマーケティング施策を実施する環境が整った。FC町田ゼルビアも“ファン戦略のギア”を上げた。

 「『データドリブン』という言葉があるように、一般企業にはデータ活用が浸透しています。しかしスポーツ業界は試合データの分析などはしても、ビジネス軸でのデータ活用は進んでいませんでした。JリーグIDのデータが提供されたことで、収益やファン数の拡大を現実的に検討できる段階になりました。来場者が多いほど、クラブの経済的な価値や社会における信頼度は高まりますし、選手も満員のスタジアムの方が気持ちよくプレイできます。そして、大勢の観客の存在が“見えない力”となってすごくドラマチックなことが起こるのがスポーツなのです」(田口氏)

photo FC町田ゼルビアの田口智基氏(マーケティング部長兼海外事業担当)

「来場回数3回の壁」をぶち破れ――勘と経験に頼った集客からの脱却

 サッカークラブの収益源は主に3つ。(1)スポンサー収入、(2)入場料収入、(3)物販収入に分けられる。これら全てに関係しているのがホームスタジアムの来場者数だ。来場者が増えればチケットやグッズが売れる上に、広告効果が高まり、協賛企業も付きやすい。

 実際の来場者数に目を向けると、ホームゲームへの来場経験が2回以下の「ライト層」と、3回以上の「ミドル層」の間に大きな壁があることが知られていた。ライト層をミドル層にランクアップするのが難しいのだ。

 FC町田ゼルビアは2回で離脱する人の属性や傾向をある程度把握しており、ランクアップを促すために「おそらくこうすればいいだろう」という仮説を立て、施策を打っていた。ただし、それは「データに裏打ちされたものではなかった」と田口氏は明かす。

 スポーツビジネスは収益が天候や各試合の結果に左右されるなど予測を立てにくく、マーケティングには勘と経験に頼るアナログな傾向が色濃く残っていた。そこにAIを掛け合わせることで、「これまでの経験値だけではなく、予測に基づいてロジカルにアクションを起こせたり、新たな気付きがあるのではという興味と期待があった」とFC町田ゼルビアの大室旭氏は振り返る。

photo FC町田ゼルビアの大室旭氏(パートナー事業部長兼海外事業担当)

「たぶんこうだろう」という仮説→分析でエビデンスを得る

 期待を胸に、大塚商会が提供するAIであるdotDataの利用を23年2月に開始。JリーグIDにひも付くメールアドレスや生年月日、居住地域、性別などの会員データを分析し、新たなインサイトを得ようと考えた。対象としたのは、21年と22年のデータだ。

 分析すると、経験則に基づく考え方は間違ってはいないという結果が出た。それならデータ分析は無駄だったのか――そんな疑問に、田口氏は次のように答える。

 「『たぶんこうだろう』という定性的な判断に対して、数字という形で定量的なエビデンスを得られることこそがデータ分析の魅力だと気付きました。次に展開するマーケティング活動に自信を持って臨めます」(田口氏)

 FC町田ゼルビアはこれまで、ホームスタジアムに近い人ほどランクアップしやすいと考えていた。町田市やその近郊、小田急線沿線に住むライト層のファンに向けて施策を打てば、ランクアップの効果があるとにらんでいたのだ。この仮説に加え、dotDataの分析で確証を得られたことで、対象者にさらにきめ細かな施策を打てるようになった。属性による集客効果の違いを定量的に可視化でき、アクションに優先度を付けられたのも大きな成果だ。

photo FC町田ゼルビアは、ホームスタジアムとして使う「町田GIONスタジアム」を城に見立てて「天空の城 野津田」と名付け、訪れるファンやサポーターを「来“城“者」と呼んで城をとりまく雲に例えている。雲の層が厚くなればなるほど、城は浮力を増し、高みを目指せるーー。そんなビジョンも描き、来場者の増加に重点を置いている

 また、「開幕戦の来場者ほどランクアップしやすい」という分析結果も出た。予想はしていたが、確信を持てたことで重点施策の絞り込みに役立った。来季は開幕戦のイベントに力を入れ、シーズン序盤からファンの呼び込みを狙う。序盤から楽しんで来場できる環境を作れれば、残りの試合に再訪してくれる可能性が高まるからだ。メールなどの個別アプローチだけではなく、ファン全体に向けた仕掛けも視野に入れるなど、dotDataの分析結果を踏まえ、機運を盛り上げるために注力したい施策について、検討を進めている。

分析で得た“意外な結果”

 dotDataを使ったことで新たな発見もあった。試合動画のオンデマンドサービス「DAZN」のライブ配信とランクアップの関係だ。DAZNで試合を楽しむファンとスタジアムに直接足を運ぶファンは結び付かないと、田口氏は当初考えていた。しかし実際には、DAZNの「リモートチェックイン」機能を使うファンはランクアップしやすいという傾向にあると分かった。

 リモートチェックインは、Jリーグの中継画面で二次元コードを読み取るとメダルが付与され、キャンペーンなどに応募できる機能だ。これを利用したキャンペーンは、コロナ禍でオンライン観戦を増やすために実施していた。dotDataの分析で、キャンペーンがリアル会場への集客にもつながり、さらにランクアップも期待できるなど想定外の効果があると分かった。その意外な因果関係を知った田口氏は「すごい発見でした。実は当初、この施策にあまり乗り気ではなかったんです。しかし、リアルの集客につながると分かったらすごく楽しくなってきました」と振り返る。

 「人間の“勘ピュータ”の精度はなかなかのものだと思います。今回の分析結果の中にも『やっぱりな』と答え合わせをできたと感じるものはありました。勘が当たったときの驚きや喜びも大きい。一方で、それほど珍しさはないですが、確かなデータを積み上げ続けると、勘を超えたインパクトのあるインサイトを得られます。そのプロセスを実感できたのは大きな収穫でした」(田口氏)。

FC町田ゼルビアの「気付き」を導いた伴走者

 AIによるデータ分析で生まれた「FC町田ゼルビアの気付き」。そこには大塚商会のサポートが大きく寄与している。AIは新しい技術であり、仕組みや構造への専門的な知識がないと使いこなせないと話す田口氏は、次のように打ち明ける。

「大塚商会さまにデータを『これ、お願いします』とただお渡しするだけで大丈夫だろうかと不安もありました。しかし、何度もミーティングを重ね、同じ目線に立って議論し、ゴールがぶれないようにコントロールしながら最終的な分析レポートを仕上げていただき、新たな知見を得られました。まさに『伴走者』という感じでした」(田口氏)

 顧客のフェーズやニーズに応じた、柔軟できめこまやかな対応が大塚商会の強みだ。FC町田ゼルビアのように、「リピーター獲得」「販促の強化」といった具体的な目的があるケースはもちろん、「AIを使ってみたいが、何に活用できるか分からない」「どんなデータをどれくらい集めると、どのような分析ができるのか知りたい」など、目指すべきゴールが分からない企業こそ、大塚商会は頼りがいのあるパートナーだと感じられるだろう。状況やリソースの整理、事業ポートフォリオの再検討、ビジネス戦略に沿った提案など、コンサルティング領域にまで踏み込んで、それぞれの企業にとって真の課題は何なのかを見極めてゴールを共に探してくれる。

photo 大塚商会はコンサルティング領域まで踏み込んで支援している

FC町田ゼルビアの次なる挑戦 カギはデータの蓄積

 FC町田ゼルビアが次に見すえるのは、収益の柱であるスポンサー収入の拡大だ。AIを生かして、協賛企業の獲得に動き出そうと考えている。数万件あるJリーグIDの会員データに比べて、パートナー企業に関するデータは十分に蓄積されていない。dotDataの有用性を知ったいま、大室氏は「この領域でも的確なデータ分析ができるように情報の蓄積を進めている」と話す。

 データ収集の難しさは、どんな企業にも当てはまる共通の課題だ。AIを活用して経営に資するレベルの分析を行うには、目的に合ったデータが蓄積されていなければならない。しかし、そもそもデータを集めておらず、収集する手段から検討すべきケースもあれば、データはあるものの、分析に必要な情報がひも付けられていなかったり、絶対量が少なかったりして、役に立たない場合もある。すぐに分析に活用できる「有用なデータ」をそろえている企業はほとんどないだろう。

 そこで、大塚商会はデータ収集のサポートにも力を入れている。FC町田ゼルビアのように、すでにデータがある場合は「使えるデータ」と「使えないデータ」を選別する。データがそろっていなかったり、社内データだけでは特徴が見つからなかったりするケースでは天気や地域の経済指標といったさまざまな外部データも積極的に取り入れる。

 どのデータで何を分析するか適切に判断できて初めて、マーケティング活動や経営指針に活用できる分析結果が手に入る。それぞれの企業にとって必要なデータを的確に判断できる「情報の目利き」がそろっていることも大塚商会の強みの一つだ。

 FC町田ゼルビアのケースでもJリーグIDのほかに、来場傾向を把握できるデータがないか探った。「イベントを開催した日は来場者数も伸びているようだ」という田口氏の気付きを基に、大型イベントや試合結果といったデータを改めて集約し直して、天候や試合のスコアが来場者数を左右するかなども分析したという。

 「サッカービジネスは成績の良しあしで収益が変わるし、有名選手を獲得しても必ず勝てるとは限りません。PDCAサイクルがすぐに崩れるような業界です。そんな私たちでもAIでデータ分析をしたことで、実施する施策に自信を持てる材料を手にできました。一般企業ならなおさら、データ分析によって新たな知見を得られて、経営をアップデートできるでしょう」(田口氏)

 取材の最後に田口氏は「FC町田ゼルビアはチャレンジ精神を大切にしています。読者の皆さんが何かに挑戦している途中につらいことがあったら、当クラブがJ1昇格を果たすまでの苦難の歴史を見てください。『いま悩んでいることなんてへっちゃら』と思えるはずです」と笑顔で明るいメッセージをくれた。

photo

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:株式会社大塚商会
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2024年2月22日