「来期の売上高は約5%の伸長を目標として、1桁繰り上がる『兆』の大台に挑戦します」――こう力強く宣言したのは、大塚商会の大塚裕司社長だ。同社は2023年12月期の連結売上高で9770億円を達成した。大塚社長はその先を見据えている。
同社はコピー機やオフィス用品の会社というイメージが強いが、実際にはシステムインテグレーション事業を主力とするIT企業だ。テック企業顔負けのIT活用によって業績を伸ばし、そこで得た知見を顧客に提供している。特に、成長戦略として“営業DX”を掲げ、データに基づく「科学的な営業」を推進して著しい成果を挙げた。
「ITを駆使したり、仕掛けや仕組みを用意したりしています。5〜6年前からAIを導入しており、AIを活用している部門の売り上げの8.8%はAIのアドバイスから生まれたものです。非常に効率的で役に立っています」(大塚社長)
大塚商会の顧客は約95%が年商100億円未満の中堅・中小企業だ。社内のAI活用で確立したノウハウを、同社を支える中堅・中小企業に還元してIT化やDXを親身に支援することが使命だと大塚社長は語る。
着実に成果を挙げている大塚商会の取り組みを深掘りすると、中堅・中小企業をはじめ日本企業が応用できるヒントにあふれている。本稿では、大塚商会のノウハウを一堂に集めたイベント「実践ソリューションフェア2024」をレポートする。
ビジネス×ITの領域で注目されているのは、やはりAIだ。すでにAI活用で成果を挙げている企業が続々と登場している。24年は業種を問わずあらゆる現場にAIが浸透していくことが期待されている。実践ソリューションフェアでもAIへの注目度が高く、専用ブースを設けて事例を紹介していた。
AIへの関心の高まりは、大塚商会も実感している。AIに関する問い合わせや引き合いが急増しているのだ。特にAIを使ったデータ分析に幅広い層が興味を持っているという。基幹システムの整備や営業支援システム(SFA)の利用など、業務のシステム化やIT化が進んだことで社内にたまったデータを活用したいという企業が多いと説明するのは、イベントのセミナーに登壇した大塚商会の郡司篤氏だ。
「ビッグデータ」がバズワード化したときに「データこそが社内に眠る金脈」と表現された。AIを使うことで、ようやくその金脈を掘れる時代になったのだ。ただし、一口にデータ活用と言ってもAIにも得手不得手はある。
「データ分析においてAIが得意な領域があります。それは『人手』が必要とされる分野です。人の作業が中心で『各種の確認作業がある』『経験がものをいう』『多くの人員が必要』といった労働集約型の業務で、AIの導入効果を最大化できます」(郡司氏)
分かりやすいのが営業活動だ。バックオフィス業務の自動化やシステム化が進んでも、営業領域には属人的な作業が多く残っている。見込みのある顧客をリストアップしてアポイントメントを取り、受注できたら売り上げを計上する。このプロセスは営業担当者の経験則に頼っているのが現状だろう。
このような属人的なプロセスこそ、AIによる改善や効率化が見込めると郡司氏は話す。なぜそう言えるのか。それは大塚商会が営業DXとして自ら実践したからだ。
大塚商会の営業DXで大きな成果を挙げているのが「AIによる提案先案内」だ。過去の商談や販売、販促、マスターデータなどのデータを分析することで、受注できる可能性が高い企業や商品、受注額を予測。半年間で約7万件の商談をAIが提案している。
実際に訪問するかどうかは担当者が判断するが、人が見落とす可能性のある見込み客をAIが提案することで、営業活動の裾野を広げられる。大塚商会では、人が作った訪問リストよりもAIが出したリストの方が成約率が約5%高いという結果が出ている。
大塚商会は、営業DXで得た知見を顧客の課題解決に生かすデータ分析サービスを展開している。データ分析のポイントとして、課題の洗い出しが大切だと郡司氏は説明する。
「どのような課題があり、それを解決することで何が得られるのかなどの目的を明確にすることが重要です。そして、AI分析に必要なデータがそろっているか、使い物になるかを判断します。ここは当社のデータサイエンティストがサポートできます」
AIに期待する成果の一つが需要予測だ。ある建材メーカーは「在庫が余っている商品と欠品の商品がふぞろい」「繁忙期は受注商品に偏りが出るので欠品による機会損失が発生する」といった課題を抱えていた。
そこで大塚商会のデータサイエンティストらとAIデータ分析の検証(PoC)を実施。売り上げ明細データや建築着工データを分析して需要予測に挑戦した。人が経験則などから導いた予測とAIの予測を比較すると、65%の項目でAIの予測精度が人の予測を上回っていた。残る35%も、ほとんどが人の予測と同レベルの結果だった。
ただし、AIは万能ではない。この事例の場合、AIでは大口取引の予測が困難だった。大口取引は顧客が「○月ごろに大型発注の予定」と口頭で伝えるケースが多く、過去のデータを分析して予測するAIはフォローし切れない。この企業は、AIの予測と担当者が持つ情報を掛け合わせて需要を予測する体制を検討している。
郡司氏は「AIの弱点を把握した上で、人とAIが協調する形で運用することも大切」と補足する。
「AIを使うことで『失われた30年』を乗り越えて再び素晴らしい成長を成し遂げられる、日本企業が持つ潜在パワーをAIが解き放ってくれるという強い手応えを感じています」――成果を挙げている事例を踏まえて語るのは、実践ソリューションフェア2024の特別講演に登壇したdotData Japanの森英人社長だ。
同社はデータ分析AI「dotData」を展開している。ここまで紹介した企業事例の成果や大塚商会の営業DXは全て、dotDataによるものだ。dotDataは、NECの研究者がシリコンバレーで起業して開発した。
大塚商会は早くからdotDataの有用性に着目し、ヘビーユーザーとして営業DXに利用してきた。その知見を生かすべく、dotData Japanとタッグを組んで中堅・中小企業向けに「大塚商会dotData AI分析サービス」を21年に始めた。dotDataの提供に加えて、分析データの確認や結果の解釈などもサポートしている。
dotDataを展開してきた経験から森氏は、AI活用によるDXのポイントを2つ挙げる。一つ目は目的設定だ。AI活用によって自社のビジネスをどのように変革したいかという目的がなければ、AIを導入しても成功は難しいと指摘する。
森氏と一緒に登壇した、大塚商会で営業DXの旗振り役をした山口大樹氏は「AIの導入が目的になってしまい、解決すべき課題へのフォーカスが曖昧になるケースがあります。AIが話題だから導入するのではなく、解決したい課題を明確化した上で導入することを忘れてはいけません」と付け加える。
AI活用によるDXのもう一つのポイントがデータだ。「単にデータを眺めているだけでは駄目で、目的を達成するためには関連するインサイト(洞察)をデータから引っ張り出さないとDXは実現できません」(森氏)
大塚商会は、dotDataの提供に加えて分析データの確認や結果の解釈などもトータルサポートしている。
「dotData最大の特徴は、分析に必要な工数を大幅に削減して短期間で高精度な分析を実現する点です。分析作業を完全に自動化する技術を採用しています。人手が掛からないので、従来のAIサービスの約10分の1という手頃な価格設定になっています」(郡司氏)
AIを使ってデータ分析を始めるには、データの加工や特徴量の設計、機械学習などのプロセスを経るので数カ月かかることもある。それに対してdotDataは、特徴量を自動で抽出して分析アルゴリズムの中から適切なものを選んで予測モデルを設計する。AIの高度な知識が必要なく、自動化によって数日で分析できるので経営のスピードを落とさずビジネスに集中できる。
dotDataは(1)課題や分析データを確認する「アセスメント」、(2)分析モデルを作って成果を確認する「PoC」、(3)作ったモデルを利用する「継続利用サービス」、(4)自社でdotDataを運用する――の4段階で本格運用を開始できる。
PoCの結果が満足なものであれば、そこで作った分析モデルを継続して利用可能だ。もちろん最新のデータにアップデートしながら分析サービスを使い続けられる。大塚商会の手を離れて自走するなら、クラウド基盤「Microsoft Azure」に独自のdotData運用環境を構築する「dotData Lite」を使うという選択肢もある。
「dotDataは人間を介さずにデータ分析できるので『取りあえず今あるデータでやろう』『次はこのデータを分析したい。寝ている間にお願い』のようなアジャイルなサイクルを回せて、適切な答えを効率良く導けます。トライ&エラーをAIに頼むことで、人間の労働コストを減らせます」(森氏)
「失われた30年の間でも、大塚商会はマスター統合やデータ一元化など今でいうDXを進めることで成長できました。そうした経験もあり、中堅・中小企業のお客さまを多く抱える大塚商会としては、AI活用やDXで日本の会社を元気にしてほしいというのが切なる願いです。dotDataがその一翼を担えるのであれば、これに勝る喜びはありません」(山口氏)
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