エヴァ「MAGIシステム」が生成AIの賢い活用方法? 出力結果の精度を上げるアイデアとは

» 2024年02月01日 18時30分 公開
[荒岡瑛一郎ITmedia]

 生成AIの普及に伴って、効果的な活用方法が日々編み出されている。ChatGPTのようなチャット形式での利用や、AIサービスのAPIを使って自社製品に搭載する方法が一般的だ。これから各社のAI開発が進んだり大規模モデルの性能が進化したりすれば、AIの使い方や導入方法を巡る議論が活発になるだろう。

 そんな“生成AI時代”に適したAIの使い方は「新世紀エヴァンゲリオン」に登場する「MAGIシステム」かもしれない――こんなアイデアが飛び出したのは、ITmedia主催のオンラインイベント「デジタル戦略EXPO」(2月25日まで)の特別講演だ。生成AI活用の第一人者である深津貴之さんと、独自LLMの開発などを進めるサイバーエージェントの毛利真崇さん、ITmedia NEWSの井上輝一編集長が登壇した。その特別講演の一部をお届けする。

photo ITmedia デジタル戦略EXPO 2024 冬

エヴァ「MAGIシステム」がAIの賢い活用方法

photo THE GUILDの深津貴之さん(代表取締役)

 AIをビジネスで活用するとき、大半の企業はまずAIの実行環境を検討する。いかに効果的に使えるかを考えるのだ。深津さんは、AIの処理にかかる費用と待機時間で使い方が変わると話す。1つの指示に対して1つの回答で完結するワンショットの用途なら、ChatGPTなどの外部サービスやクラウド処理で利用すればいい。それに対して10回推論して完成度の高い成果物を求める場合はローカル環境で実行する方が費用対効果が高い。「アイデア100本ノック」などはローカル環境の方が効果的だと深津さんは話す。


 AIの基本的な利用方法に話が及んだところで、生成物の精度を上げる方法についてのディスカッションがあった。


井上編集長 これからもっと高性能なAIモデルが登場するでしょう。クラウド処理にしろローカル処理にしろ、高性能でモデルサイズが大きいものは計算コストがかかります。命令を投げてから返答があるまでに時間がかかることもあるのではないでしょうか。

深津さん 多くの人が考えている実装方法がどこまで正しいか分かりません。高性能かつ大規模な1体のAIに答えさせるより、中規模のAI×3体が出した答えを統合したり多数決させたりする方が性能が良くなるかもしれません。ユーザーとAIが1対1でやりとりする対話型AIが出す答えがファイナルアンサーなのか怪しい気がします。

井上編集長 AIを3体組み合わせるというのは、新世紀エヴァンゲリオンに登場するMAGIシステムのような感じですね。

深津さん 1体のAIだけで考えるよりも、3体のAIが出した意見を統合することで回答が平均的な値に収束していきます。統計でいう「平均への回帰」がかかるので、1体のときよりも頭がいいというか、滑らない答えが出やすいでしょう。

井上編集長 井上編集長「三人寄れば文殊の知恵」という慣用句がありますしね。


 MAGIシステムは、エヴァンゲリオンに登場するスーパーコンピュータシステムだ。人間の人格を模した3台のコンピュータによる合議制を採用しており、3台の意見を集約した結果を出力する。

 今後AIを活用する上でも、複数のAIを使うことで極端な回答の出力を抑えたり多角的な視点を含めたりできるのかもしれない。

AI同士で相見積もり サイバーエージェントの「極予測AI」

photo サイバーエージェントの毛利真崇さん(AI事業本部 AIクリエイティブDiv. 統括)

 深津さんが提案するAIの合議制に似た考え方を既に実行している企業がサイバーエージェントだ。同社が開発したインターネット広告の制作支援システム「極予測AI」に生成AIを組み込んでいる。

 「極予測AIで広告クリエイティブの効果を予測したり、キャッチコピーを自動生成したりして効果的な広告の制作に役立てている」とサイバーエージェントの毛利真崇さん(AI事業本部 AIクリエイティブDiv. 統括)は話す。


 キャッチコピーの自動生成を命令すると、ChatGPTをはじめとした複数のAIがコピーを生成する。出力された生成物の中から効果が良さそうなものをフィルタリングして候補として提示する仕組みだ。AI同士で相見積もりしているイメージだという。

photo 生成AIなどを活用したキャッチコピー生成機能(サイバーエージェントのプレスリリースより)

 サイバーエージェントはさらに、AIで架空の人物画像を生成するシステム「極予測AI人間」も運用している。AIが作った広告クリエイティブの効果はどれほどなのか、なぜサイバーエージェントはAI活用を積極的に進められるのか――この続きはぜひオンラインイベントの講演でチェックしてほしい。

 特別講演では、深津さんとサイバーエージェントの毛利さんが記事で紹介したようなAIの活用ポイントから開発や社内展開のティップスまで「日本企業の戦い方」を議論している。さまざまなアイデアが飛び交う講演なので、知的好奇心を刺激されるはずだ。

深津貴之氏 × サイバーエージェントが語る生成AIの活用方法

  AIの業務利用やLLMの自社開発などが加速する一方で、すぐに成果が出ないなど難しさがあります。企業は生成AIをどう活用すればいいのか――深津貴之氏と、独自LLMを開発したサイバーエージェントの毛利真崇氏が対談したイベント「ITmedia デジタル戦略EXPO」をこちらから無料でご視聴いただけます

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