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「15人のはんこリレー」vs.「庵野秀明との対話」 JAXAからカラーに移った、とある新人制作進行の話(前編)(1/3 ページ)

» 2023年12月29日 10時00分 公開

 宇宙開発からアニメの制作進行に転向するという異色の経歴の人物がいる。成田和優(なりた・かずまさ)氏だ。

「プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン 実績・省察・評価・総括」著者の成田和優氏

 JAXAの文系職から2017年にカラーに転職(現在はフリーランス)。21年3月に公開された「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(以下、シン・エヴァ)の「Avant2パート」「Aパート」の制作進行を担当した。

 全国に拠点を持つ1500人以上の組織から、中小規模のクリエイター集団へ。税金で宇宙開発を行う国立研究開発法人から、自前で資金調達するアニメスタジオへ。

 なぜ職を移ったのか。両者の違いと共通点は。シン・エヴァの制作を通じて感じた、アニメ業界のマネジメントとは。同作品のプロジェクトマネジメントにフォーカスした「プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン 実績・省察・評価・総括」の著者でもある成田氏に話を聞いた。本稿は前後編のうち前編としてお届けする。

プロフィール

成田和優(なりた・かずまさ)

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1984年生まれ。2008年にJAXAに入社し、約9年半勤務した後、2017年にカラーへ入社。有限会社ゼクシズに出向し、『あさがおと加瀬さん。』に制作進行として携わった後、カラーに復帰。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の制作進行を担当。2023年7月にプロジェクトとしての『シン・エヴァ』映画制作を振り返る公式報告書籍『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』を上梓。2023年11月下旬に株式会社カラーを退社、以降フリーランスとなる。

SNSアカウント:@Narita_Kazumasa

書籍公式サイト: https://www.khara.co.jp/project-eva/

電子版詳細:https://www.khara.co.jp/2023/07/10/2023071018/


JAXAもカラーも「プロジェクト」が中核

 成田氏は小学生のころに「新世紀エヴァンゲリオン」のテレビシリーズを見て以来の庵野秀明ファン。劇場版も追いかけてきたという。「自分の根本的なものを形成し、影響された」作品だった。

 JAXAでは、新卒で種子島宇宙センター(鹿児島県)の広報などを手掛けた後、筑波宇宙センター(茨城県)に異動。契約書のチェックなどを担当したのち、人工衛星開発のプロジェクトチームに参加した。

 JAXAの仕事も映像制作も「プロジェクトが業務の核」である点が共通していると成田氏は言う。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版やシン・ゴジラは、ファンとして見ると同時に、これだけの質量の作品が、プロジェクトとしてどうマネジメントされているかが気になりだした」

 そんな中で17年春に見つけたのが、カラーが自社サイトで公開していたヱヴァンゲリヲン新劇場版シリーズ新作の制作に関する人材募集だ。「運命かもしれない」と成田氏は感じた。

 JAXAの仕事も楽しくダイナミックだったが、成田氏個人にとっては「エヴァの完結の方が大事」だった。「エヴァの完結は人類の歴史の中で大事な局面だと位置づけていたので、行くしかないのではないかと」

 それでもすぐには応募せず、締め切りまで1カ月ほど寝かせたが、気持ちは変わらない。過去のキャリアに適合する職種はなかったため、未経験ながら制作進行に応募。17年11月に新人の制作進行として採用されたという。

「想像と違い、アニメはシステマチックに作られている」

 当時のカラーはすでに、シン・エヴァの制作に入っており、新人の制作進行を育成できる状況になかったため、成田氏は別の制作会社であるゼクシズに出向。「あさがおと加瀬さん。」のOVA(オリジナルビデオアニメ)の制作を半年弱経験し、仕事を覚えた。

 それまでは「アニメはふんわりとしたフィーリングの連続で、魔法のように作られている」というイメージでいたが、実際に経験すると「魔法の部分もあるが、ものすごくシステマチックにしっかり管理されたプロジェクト」だったことに驚いた。「アニメ制作にもワークフローがあり、手順に則れば作ることができる。それが驚きだった」

 日本のテレビアニメは「鉄腕アトム」以来50年を超える歴史があり、「試行錯誤が終わって煮詰まり、洗練されている」と感じた。特に「あさがおと加瀬さん。」は、王道的な作り方をしていたことからも、そう感じる面が大きかった。

 ただシン・エヴァに関しては、アニメの歴史になかった作り方が試されている。(詳しくは後編にて)

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