きっかけはパソナ 話題の店と有名シェフが淡路島に集結 「美食観光」ニーズが追い風に長浜淳之介のトレンドアンテナ(3/6 ページ)

» 2024年02月03日 05時15分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

被災地にとって光となる取り組み

 同社が主に開発してきた西海岸は、山が海に迫り農地にできる場所も少なく、淡路島でも過疎が進んだ場所だった。阪神・淡路大震災では震度7の揺れが襲い、野島断層が最大で水平方向に2.1メートル、上下方向に1.2メートルのズレを起こすなど壊滅的な被害を受けている。

農家レストランの陽・燦燦

 復興は絶望的と思われた限界集落を、一大観光地に変えたパソナグループの功績は、三陸や能登などの大震災の被災地に希望をもたらすものではないか。被災した過疎地の復興に注ぎ込む税金が無駄だといった論議もあるが、人道上のみならず経済的にも間違っていると筆者は考える。

 パソナグループが淡路島の地方創生に乗り出したのは08年で、野島地区で農業体験プログラム「パソナチャレンジファーム in 淡路」をオープンした。収穫した農産物を使って販売所やレストランを経営し、6次産業化ができないかという発想の下で開業したのがのじまスコーラで、以降も横展開を行っている。

 パソナチャレンジファームを発展させ、21年10月には「Awaji Nature Lab & Resort」がオープンした。約3万8000平方メートルの広大な敷地に、農業体験ができる農園、さらに農家レストランとマルシェ、自然と一体になった住環境を体感できる自然循環型滞在施設、SDGsの専門家が情報発信するラボなどのコンテンツを整備している。

 同施設内の農家レストラン「陽・燦燦(はるさんさん)」は、自社栽培の採れたて野菜や淡路島産食材にこだわり、奥田政行シェフと発酵醸造料理人の伏木暢顕シェフが監修に付いている。茅葺き屋根の建築は、世界的建築家の坂茂氏が監修。環境に配慮して再生紙による「紙管」を柱の建材に使用するなど、挑戦的な空間に仕上がっている。

陽・燦燦の店内の様子。柱は紙管製
陽・燦燦で提供する、季節野菜と淡路島えびすもち豚のロースト

 また、22年4月には禅をテーマにした「禅坊 靖寧」をオープン。山間に立地する高低差を生かした建築も坂茂氏が設計した。空中に浮遊したような独特な感覚で座禅体験ができ、インバウンドからの人気が高い。レストランも有し、料理監修は伏木暢顕シェフとなっている。

禅坊 靖寧の座禅スペース

 このように、パソナグループのガストロノミーツーリズムの試みは地産地消をベースに、有名シェフを要所に起用してレベルの高い食を提供している。しかも食にとどまらず、農業、芸術、文化と広範な分野を巻き込んだ、多彩な淡路島の魅力を引き出している。

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