こうした中で、客を1人でも多く集客したいのがショッピングモールでしょう。米国のモールは、アマゾンなどのECの影響で空室率がひどく、価値が下がっている状態だからなおさらです。
実は今、米国に来たことのない日本人でも知っている、ある映画の舞台となったモールが、目の当てられない状態になっています。
それは「バック・トゥ・ザ・フューチャー・モール」として知られているロサンゼルス郊外のプエンテ・ヒルズ・モール(Puente Hills Mall)。85年に封切られた映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(Back to the future)で、ストーリー上の重要な出来事に使われたモールです。
それはショッピングモール屋内ではなく、モールの広大なパーキング。深夜のショッピングモール「ツイン・パインズ・モール」(Twin Pines Mall)の駐車場で、スポーツタイプの乗用車デロリアン・DMC-12を改造して発明家のドクが開発したタイムマシンの実験を行うシーンです。
主人公のマーティ・マクフライが過去から戻ってきて「ローン・パイン・モール」(Loan Pine Mall)になったモール駐車場でドクを助けようとするシーンでもあります。ドクがテロリストから銃撃を受け、自分も追いかけられるシーンを目撃するのです。
ここで使われていたのが、74年にオープンしたプエンテ・ヒルズ・モールなのです。当時の映画では、大手百貨店チェーンのJCペニーを見かけることができます。ただ、ここ5年ほどでJCペニーやシアーズ、トイザらス、フォーエバー21など大手テナントが次々に撤退し、22年には同モールからメイシーズが撤退。現在、映画館チェーンのAMCとジムのみになっています。
かつては120万平方フィート(約3.36万坪)の商業スペースを備えた南カリフォルニアでも有数なショッピングセンターは、いまやテナントもわずかで客もいないため、ゴーストタウンと化しているのです。年末商戦であっても空きテナントばかりのデッドモールには客が集まらない。このモールだけでなく、地方のモールはどこも悲惨な状況になっています。
ロサンゼルス・タイムズ紙は23年12月16日、ほとんどの店舗が撤退したプエンテ・ヒルズ・モールで家族とのポートレート撮影を行うサンタクロースの記事にアップしていました。
週6日間を時給20ドルで雇われたサンタクロースでしたが、平日5時間の勤務中に一緒に撮影する家族は10組未満だったとか。撮影費用は他のモールに比べてなんと2分の1、3分の1の価格となる10.99ドル。格安にもかかわらず、サンタとのポートレートは閑古鳥状態。そもそも店がない上に客がいないのだから、激安価格とて誰もサンタと撮影などしなかったのでしょう。
同紙に続き、地元テレビ局もクリスマス前の土曜日に「バック・トゥ・ザ・フューチャー・モールがゴーストタウン状態になっている」(SoCal mall featured in 'Back to the Future' looks like a ghost town)と報じました。
筆者もスーパーサタデーの12月23日土曜日に同モールに視察に行ってみました。マーティ・マクフライがデロリアンに乗って過去にタイムスリップする駐車場側からモールに入ったのですが、別世界でした。「怖い」という感情さえ抱くほどでした。
昨年まであったメーシーズが撤退したことでモールの端に位置する核テナントがなくなり、足の先から腐るようにその周囲にあったテナントが全て撤退しているのです。155のテナントのうち、体感で30%程度しか店舗がない状態です。
クレディ・スイスは2017年に米国に約1100カ所(当時)ある大型ショッピングモールのうち、20〜25%が22年までに消滅する可能性があると発表しました。「バック・トゥ・ザ・フューチャー・モール」の惨状を見る限り、予測が現実のものとなっているようです。
アマゾンを始めとしたECに押され、苦境が続く米国のショッピングモール。決して日本も他人事ではないでしょう。アマゾンにはない独自性をショッピングモールがいかに発揮できるかにかかっていると言えそうです。
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