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“キラキラ若手”が会社を辞める3つの要因(3/3 ページ)

» 2024年02月06日 07時30分 公開
[小林祐児ITmedia]
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 ソーシャル・エンゲージメントのみ高い層は、パフォーマンスやワーク・エンゲージメントが高いが、同時に転職意向・キャリア焦燥感(キャリアを築くことへの焦り)も高いという結果になった。

photo 図4:ソーシャル・エンゲージメントとソーシャル・レリバンスの高低別特徴 出所:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「就業者の社会貢献意識に関する定量調査」

 これがまさに、社会的志向性が高い若者が、貢献実感のなさに落胆し、その会社を辞めていくという事態を説明しているといえよう。ソーシャル・エンゲージメントはソーシャル・レリバンスと組み合わさったときに大きな力を発揮するのであり、その就業者の社会貢献への期待が裏切られてしまえば、他に活躍の場を求めていく者が増えるリスクがあるようだ。

 では、ソーシャル・エンゲージメントが低い就業者だけで組織を構成すればいいかといえば、そうではない。先ほどの4群の中でソーシャル・エンゲージメントとソーシャル・レリバンスの両者が低い群(共に低い層)は、ソーシャル・エンゲージメントのみが高い層よりもパフォーマンスもウェルビーイングも最も低いからだ。社会性を一切感じず、興味もないという群が最も活躍から遠のいている。そうした人だけを集める企業が持続的に成果を出すのは難しいだろう。

 このソーシャル・エンゲージメントとソーシャル・レリバンスの両立のために企業は何ができるだろうか。詳しくは別コラム(近日公開予定)に譲るが、「貢献実感のなさ」や「他者軽視感」といった若手就業者の働く状況を改善することが第一歩であろう。

 求人広告や採用Webサイトでは事業の社会貢献性を強調しておいて、働き始めた途端、細切れで何に貢献しているかが分からない仕事に関わることになったり、顧客のためにならないような詐欺的なサービスの売り上げをひたすらに追いかけさせられたりするなどの仕事の在り方が、社会性の強い若者にリアリティー・ショックを生んでいる。それは、社会倫理的にというよりもまず、人材マネジメントの戦略としての失敗であろう。人事や管理部門は、こうしたことが自社で起こっていないか、まずは現場に降りて確認してほしい。

まとめ

 「ソーシャル・エンゲージメント」が高い若者は、視野が広く、ジョブ・クラフティングができ、パフォーマンスが高いものの、「自社での仕事」が社会への貢献とひも付いている実感がないと、離職していくリスクが高まっている。これが本コラムで議論した「意識の高い若者から辞めていく」という「あるある」の背景を説明している。

 離職しなくても、短期業績ばかり追い、貢献実感が欠如した仕事を続けることで、人は「社会」を考えることを徐々にやめていく様子も見られた。社会貢献など青臭いことだと「達観」し、「無力感」にとらわれ、「無関心」になっていっている。このような傾向は、企業での働き方が、人から社会性を失わせていくメカニズムそのものである。90年代以降の成果主義トレンドの功罪はこうした観点からも検討されるべきである。

小林 祐児

パーソル総合研究所シンクタンク本部上席主任研究員。NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。新著『リスキリングは経営課題』では、従来の発想を乗り越えるべきという提案にはじまり、リスキリングを現実的に進めるための仕掛けや仕組み、方向性について、各種データをもとに論じている。

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