HR Design +

土木建設にタクシー運転手──きつくても「人が集まり辞めない」企業の秘密とは?働き方の「今」を知る(1/6 ページ)

» 2023年12月14日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

 帝国データバンクが7月、全国の全業種2万7768社を対象に実施した調査によると正社員が不足していると感じる企業は51.4%を記録し、コロナ禍前の水準へと完全に戻っている

 さらに中小企業に限れば、ほぼ7割で人手が不足しているというデータもある。日本商工会議所が9月末に公表した調査結果によると「人手が不足している」と回答した中小企業の割合は68.0%だった。

 この割合は調査を開始した2015年以降で最高水準であり、その中でも約6割の企業は事業運営に支障が生じるレベルの「深刻」な状態だと回答。少子化の影響で若者の絶対数自体も減少している状況で、今後人手不足感はさらに高まることはあっても、解消されることはおそらくないだろう。

深刻化する人手不足(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 しかしこのような状況下においても、募集に対して多くの人が集まり、高い従業員定着率を誇る会社は確実に存在している

 誰もが名前を知る大手企業や有名企業であれば、その知名度だけで応募者が集まってくるのは当然と思われるかもしれないが、今回ご紹介する企業は決して大手でも有名でもない。規模は比較的小さく、全国的な知名度もなく、大都会に立地しているわけでもない。むしろ、世間的には不人気と評されるような業界である

 それでも独自の企業努力によって好業績を維持し、労働環境を改善することで働き手のエンゲージメントを高め、高い定着率や採用成功につながっているのだ。では、それらの企業では具体的にどのような取り組みをしているのか。記事の前編では、携帯ショップと警備会社の事例を紹介した。本記事(後編)では、建設業とタクシー業の事例を紹介する。

建設業は危険できつい? それでも人が集まり辞めない会社とは

 建設現場を支える建設技能工の人手不足は、あらゆる業種の中でもとりわけ深刻な状況にある。

 わが国の建設市場(建設投資)は、1992年度の84兆円をピークに減少傾向が続き、2010年度にはピーク時の50%程度まで減少していた。しかしその後、東日本大震災の復興需要や東京オリンピックをはじめとする民間設備投資の回復などにより増加傾向となっている。23年度の建設投資は前年度比2.2%増の、70兆3200億円となる見通しだ。

 建設市場の拡大自体は景気の良い話かもしれない。だが問題は、建設市場の拡大に対して、建設技能工や建設技術者の数がまったく追いついていないところにある。

総務省「労働力調査」、国土交通省「建設総合統計」よりヒューマンリソシア作成

 わが国におけるすべての業界・業種を平均した有効求人倍率は、12年の0.80倍から22年の1.31倍の間を推移しているが、建設技能工は同期間において1.98倍から5.71倍、建設技術者に至っては2.43倍から6.53倍という高水準で推移しているのだ。これはすなわち、建設業界では100人の求職者あたり500〜600件の求人が常に存在しており、まったく募集枠が充足していないという状態を意味している。

2022年度平均の有効求人倍率(パート除く常用)、厚生労働省「一般職業紹介状況」よりヒューマンリソシアが作成

 ここまで深刻な人手不足に至っている理由はいくつか考えられるが、構造的な問題としては業界全体の高齢化が挙げられよう。少子高齢化はあらゆる業界で共通の問題だが、建設業界では特にその傾向が強い。

 建設業従事者のうち4割近くが55歳以上であり、60歳以上が全体の4分の1を占めている一方、20代以下は1割ほどしかいないのが現状なのだ。これから10年以内には多くの熟練労働者が引退していくことが確実であるにもかかわらず、若手労働者がギャップを埋めるためには長い時間が必要であり、その絶対数も足りない。長年培った技術やノウハウが業界から失われていく中で、人手不足はさらに深刻化するのは間違いないだろう。

 また、業界全体を覆う労働環境の過酷さ、労働条件の悪さも大きな課題だ。長らく「3K(危険・きつい・汚い)職場」などと呼ばれていたネガティブな印象はいまだに根強く、実際に肉体労働が多いうえ、週休2日制が一般的でないこと、炎天下や吹きっさらしの環境や、高所作業などには身の危険も伴う職場など、特に若手から避けられがちな要素が詰まってしまっている。

 さらに多くの現場は日給制で、天候や現場の有無によって報酬が変動するため収入が不安定であり、下請けの立場ともなれば時には最低賃金以下になることもある。現場が遠方となれば、移動に伴う拘束時間が長くなってしまうこともしばしばだ。わが国の建設業における年間総実労働時間は全産業平均よりも高く、特に高齢の労働者にとっては負担が大きい。

 一方で建築需要は旺盛であり、今後も大阪万博やリニア中央新幹線といった新たな国家規模のプロジェクトはもちろん、老朽化した高速道路やトンネル、各種インフラのメンテナンスなど、需要を満たせるだけの人手が求められている。

 現在はようやく一部の企業や現場で週休2日制が導入されたり、ICTやAIなどを活用した現場作業の効率化などが進みつつあるが、今後ますます建設技能工という職業の魅力を高めていくことが重要になることは間違いない。

 このように、全国どこの建設事業者も人員確保に苦心している中、良好な労働環境と高水準の報酬制度、高い従業員エンゲージメントによって経験者採用に成功し、かつ高い定着率を誇る土木建設会社がある。それが埼玉県の青木土木工業だ。

       1|2|3|4|5|6 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.