HR Design +

「業務ミス」で教員に95万円請求──個人への賠償請求は合法なのか?民間企業のケースも解説(1/6 ページ)

» 2023年10月05日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

 今年5月、川崎市の市立小学校において、教員がプールに水を入れる際のミスにより、計6日間にわたって水が出しっぱなしとなった結果、約190万円の上下水道料金が発生。川崎市は損害賠償金として、約95万円(損害額の半分)を、教員と校長に請求した。

 この件は報道されると瞬く間に世間の注目を集めた。市の決定に対しては「故意ではない過失に対して、個人に弁償させるなんてブラックすぎる」「教員の過重労働が大きな問題になっているのに、ミスで賠償責任まで負わされるとなったら、教員のなり手がますますいなくなるのでは?」といった批判が寄せられた。

プールに関するミスから、教員と校長が損害賠償金を払うことに(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 一方で「注意不足によるミスの補填(ほてん)に対して、市民の血税を使うべきではない」「教員の人手不足とミスは別問題。業務上の不注意に対して責任を問われないとなれば、普段からミスなく仕事をしている教員のやる気を削ぐことにもなりかねない」と、市の決定に賛同する意見も見られた。

 とはいえ、実際のところは批判意見が多かったようだ。8月末までに川崎市の窓口に寄せられた400件超の意見の多くは批判的なものだったという。さらには教職員らで結成された川崎市教職員連絡会は、賠償請求撤回を求める署名をインターネット上で立ち上げ、集まった約1万7000人分の署名を市と教育委員会宛てに提出するなど、大きな動きが広がっている(なお川崎市教育委員会は9月15日、校長側から賠償金の支払いがあった旨を発表している)。

「業務上のミス」なのに個人が支払う? 賠償請求は合法なのか

 実は、学校プールの注水や排水におけるミスで巨額の水道料金が発生してしまうトラブル自体は全国でしばしば発生している。今般のような全国ニュースにならず、内々で処理されたものを含めれば、発生件数は相当数に上るだろう。

 例えば、川崎市のケースとほぼ同時期の本年4月には、宮城県内の小学校のプールで教員が注水後、元栓を閉めるのが不十分だったせいで、プール約10杯分の水(約200万円相当)が流出するというミスが発生している。しかし市教委は関係職員に厳重注意はしたものの、個人への賠償請求は見送った。水道料金については市が補正予算を組んだうえで、一般会計から支払いに充てる方針だという。

 一方で、川崎市のケースと同様に、関係者個人に賠償請求がなされた事案もある。2015年6月に東京都小金井市の都立高校で発生した、7日間にわたって排水口を開けたままプールに給水し続けていたケースでは、市は損害額約116万円の半額となる58万円を、校長を含めた関係職員7人に分担して支払うよう請求している。

 ほぼ同様に思われるそれぞれのケースにおいて、片方は損害賠償請求され、もう一方はされなかったのはなぜなのか。

 法的な根拠から考察することで、一般的な企業でも起こりうる「業務上のミス」に対して、働き手個人に損害賠償を請求したり、懲罰的な罰金を科したりすることは果たして合法なのかという問題について解説していきたい。

       1|2|3|4|5|6 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.