「業務上で発生した損害に対して賠償責任が発生する」という点では、公務員でも民間企業の従業員でも変わりはない。労働者に故意や過失があった場合は、会社が労働者に損害賠償を請求することもあるし、それ自体も違法ではないのだ。
ただし、会社組織は危険をコントロールできるし、労働者の働きによって利益を上げているわけだから「業務上のリスクを労働者にすべて負担させることは不公平」という考え方(危険責任と報償責任の法理)があり、損害賠償責任が発生したとしても、労働者側が全額を賠償することはなく、労働者への責任追及が制限されるケースは多い。
では、損害賠償が発生するような従業員の「故意」や「過失」とはどれほどのレベルなのだろうか。インターネット上などではしばしば「仕事でミスしたり遅刻したら1回あたり罰金500円」とか「ノルマ未達成なら罰金1万円」といったとんでもない設定をしている会社が話題に上ることがあるが、これらは到底過失とはいえない。損害賠償が発生するくらいの過失と呼べるのは、これくらいのレベルである。
そして、これほどの重大な過失や、故意や悪意がある場合であっても、そのすべてが労働者側の責任となるわけではない。行為の違法性の程度や、会社側がそもそもトラブルに至らぬよう教育訓練や予防策をとっていて、保険などにも加入していたか否かなど、会社側の管理責任や教育指導体制を考慮して賠償額が判断されることになる。
一般的な民事事件とは異なり、労使関係の上で発生した損害賠償請求に関しては、会社側にも損害の公平な分担が必要であるとの考え方がある。そのため、過去の判例では一般の過失であれば会社が労働者個人に請求できる賠償金は損害額の2〜3割程度、よほどの重過失でも5割程度が限度のようだ。したがって、労働者側のミスによる損害だったとしても、会社側が労働者に損害額全額を負担するよう求めてきた場合は、労働者側もただちに要求をのむ必要はなく、話し合いの余地があると考えてよいだろう。
【注】会社が損害額全額を従業員に対して請求できるケースがあるとすれば、それは従業員が故意に会社の金品を横領した場合であろう。横領は明らかな犯罪行為であり、会社に責任があるとは考えられないし、営業上の損失ともいえないからである。
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