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土木建設にタクシー運転手──きつくても「人が集まり辞めない」企業の秘密とは?働き方の「今」を知る(2/6 ページ)

» 2023年12月14日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

(3)青木土木工業株式会社(埼玉県・土木建設業)

 青木土木工業は宅地造成にかかる土木工事はもちろんのこと、上下水道の管工事、建物の解体工事に住宅の基礎工事、宅内給排水設備工事に樹木の伐採など、あらゆる工事を自社一貫で施工する総合建設会社である。埼玉や東京で実績のある複数の工務店やハウスメーカーと取引があり、業績は堅調。現在14期目だが、創業以来増収増益を継続しており、従業員数はグループ全体で約60人、年商は40億円を突破している。

青木土木工業のWebサイトより

 創業者で現・代表取締役の青木享洋氏は実家も土木業を営んでおり、幼少期から遊び場は建築現場、学生時代のアルバイトも土木現場という生粋の建設業界人。就職先も建設会社で、22歳から現場監督の経験を持つ筋金入りだ。

 その際、とりまとめが難しかったり、近隣から建設に反対運動が起きたりするような難度の高い現場を数多く担当してきたことで豊富な知見を蓄積。氏が30歳のときに仲間6人と現社を興すことになったが、氏の現場監督時代の働きぶりをよく知るホームメーカーの社長から早々に仕事を受注したことが事業のベースとなり、現在まで安定した業容を誇っている。

 同社はその社名通り、当初は土木造成工事から事業を開始したが、基礎工事においてはどうしても水道工事が絡んでくるし、その際は役所への申請が必須で、かつ有資格者がいないと進められない。当初は別会社に依頼していたがそれだと工事費の総額は高くなるうえ、期間的にも工期ギリギリになってしまう。

 もどかしさを感じていた青木氏が一念発起し、自社でも水道工事を請け負えるようにしていったことが、現在に至る業容拡大のきっかけであった。結果として、自社で申請すれば工事許可がおりてすぐに着工できるため、同じ作業員数でも2倍の現場がこなせるようになった。利益率も向上し、創業メンバーで水道工事の知見を持った人物が経験者をスカウトしてきたことでさらに対応可能領域が拡大。顧客からの依頼にも応じて、土木造成のみならず、管工事や設備工事、基礎工事まで請け負える体制が整ったのだ。

高度な知見がもたらす「強み」

 年間約2000棟の施工をこなす実績により培われた土木工事にまつわる豊富な知見は、顧客による同社の指名につながっている。

 依頼主である不動産会社やハウスメーカーにとっては、造成費や工事費の概算を把握し、プロジェクトの費用感を早期に算出しなければならない。また工事着手後に状況が変化し、当初見積から大きく費用が変わったり、工期が遅れたりするような事態は出来る限り避けたいし、工事中の事故や、近隣とのトラブルなども極力発生させたくないものだ。

 その点、青木土木工業では青木氏が造成工事、創業メンバーが水道工事に関して深い知見を保持しており、これまでの実績からすぐに造成費用、工事費用の見積もりができる。特に水道工事の知見では業界最上級だと言われており、埼玉県水道局の担当者も同社に意見を求めてくるほどの関係性だという。

 さらには、担当している現場が多いため、一括発注により材料のコストを抑えられるうえ、残土のやり繰りもしやすいため、他社よりも平均2割もの低コストで受注できる点も、同社が選ばれるポイントだ。もちろん、だからといってクオリティが低いわけではない。最終的な営業利益を7%確保するために緻密なコスト計算をして「年間を通して、全部の現場を通して利益が出ればいい」という考えに基づいて運営している。

 同社が多数ある同業他社の中から選ばれ、高収益を確保できている要点のもう一つは、強い責任感にある。決められた工期や品質は厳守し、ミスや事故、トラブルなどが発生して工期が遅れる事態となった時も、一般的には逃げ腰になったり協力会社のせいにしたりするところ、全て自社内で対応し、協力企業を含め外部に責任転嫁させることがないのだ。

 実際、過去に工事が遅れたことで、顧客にとって当該期の実績にならなかった物件が発生した際、青木土木工業でその物件を買い取る対応で責任を取ったことがあった。これらの対応姿勢が業界内で評判となり、顧客となる不動産会社やハウスメーカーはもちろん、各自治体の担当者レベルでも人間関係が構築できており、スムースな仕事につながっている。

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