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活躍する若手は「何のため」に働いているのか 「会社のため」ではない(1/4 ページ)

» 2024年01月17日 16時15分 公開
[小林祐児ITmedia]

この記事は、パーソル総合研究所が2023年12月14日に掲載した「『社会』へのエンゲージメントが仕事で活躍し幸せを感じることに導く――ソーシャル・エンゲージメントとは何か」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などはすべて掲載当時のものです。


 パーソル総合研究所では、立教大学の中原淳教授、ベネッセ教育総合研究所との研究プロジェクトである「ハタチからの『学びと幸せ』探究ラボ」において、若手社会人が仕事で活躍し幸せを感じること(幸せな活躍:注1)のヒントを探ってきた。本コラムではその研究の中から就業者の幸せな活躍にとって重要な要素として発見された、「社会」へのエンゲージメント、「ソーシャル・エンゲージメント」について紹介する。

(注1)具体的には、以下のように「幸せな活躍」を定義した。「はたらく幸せ実感」はパーソル総合研究所×慶應義塾大学 前野隆司研究室 「はたらく人の幸せに関する調査」より「はたらく幸せ実感」の項目を使用した。
本調査での「幸せな活躍」の定義と測定:「はたらくことを通じて、幸せを感じている」などの7項目を「個人の主観的な幸せ(はたらく幸せ実感)」として測定し、「顧客や関係者に任された役割を果たしている」「担当した業務の責任を果たしている」などの5項目を個人のジョブ・パフォーマンスとして測定した上で、全体分布の中でともに高い層を「幸せな活躍層」として定義。

エンゲージメントとは何か

 「エンゲージメント」という言葉は、ここ10年ほどのHRM(人的資源管理)の一大キーワードだ。人事の実務においても頻繁に用いられるようになり、人的資本開示の重要項目の一つとしても注目されている。意味が不明瞭な使用も多々ありつつも、個人と「組織」「会社」「仕事」の間のポジティブな関わり方を測定しようとする概念として広く流通している。

 昨今、注目されてきたエンゲージメントのコンセプトは、大きく2つの種類のものがある。まず、広く「従業員エンゲージメント」と呼ばれるタイプのエンゲージメント概念は、従業員と「組織」との信頼関係やコミットメント、愛着の強さを示す言葉として使われる。「組織コミットメント」や「ロイヤリティー」といった、従来よりある学術的概念と類似した使われ方をしているが、専門用語というよりも一般的用語であり、極めてあいまいな使われ方をしているのもこの「従業員エンゲージメント」である。

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 もう一つは、より具体的な「仕事」にフォーカスした概念である「ワーク・エンゲージメント(Work Engagement)」だ。これはオランダ・ユトレヒト大学のシャウフェリ教授らによって提唱された(注2) 。従業員エンゲージメントよりも学術的なバックグラウンドが尊重された使われ方が目立つ。「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」 (熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つの要素から定義されている。

(注2)Bakker, Arnold B., et al. "Work engagement: An emerging concept in occupational health psychology." Work & stress 22.3 (2008): 187-200.

 エンゲージメントという言葉は、大きくはこれら2つのエンゲージメント概念の要素のどちらか、もしくはそれらを足し合わせたようなものとして実務に取り入れられていることが多い。

  • 従業員エンゲージメント:組織・企業と従業員との信頼感
  • ワーク・エンゲージメント:仕事へ没頭していること・仕事と誇りとやりがい

 なぜこうしたエンゲージメント概念が重要なものとして人事の実務のキーワードになっているだろうか。その背景には、人の就業年数が伸び、組織の人材の多様性が増すとともに、それまでの「社内のキャリアの上昇」という単一的な誘因だけでは、従業員のポジティブな関わりが引き出しにくくなったことがある。ダイバーシティー、テレワーク、働く価値観の多様化など、会社組織から離れていく「遠心力」が強くなるとともに、「求心力」を維持することが反動的に重要になってきたのだ。

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