マツダ・ロードスターの大改変 減速で作動するアシンメトリックLSDの狙い池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/7 ページ)

» 2024年02月12日 11時47分 公開
[池田直渡ITmedia]

そもそもLSDって?

 まずはクルマが曲がる時、内輪と外輪は描く軌跡が違う。当然外輪の方が回転半径が長いから円弧も長く、だから外輪はより速く回る必要がある。軌跡の長さを省みず同じ速度で左右輪を回そうとすれば、長い側、つまり外輪がブレーキになってしまうのだ。特にタイトなコーナーにおいてはやっかいだ。

 なので、この軌跡の長さの差を吸収してやる仕組みがないとクルマはうまく曲がれない。そこで生み出されたのがデファレンシャルギヤ、日本語では差動装置と呼び、多くの場合「デフ」と略される。単純化すれば軽く回る側を速く回す。つまりクルマはデフがあるから曲がれる。

 ところがデフには欠点があり、これまで述べてきたように、スポーツドライブなどで、FRのクルマの内側後輪が浮き上がるとどうなるかといえば、タイヤの接地圧が不足して、タイヤのグリップが落ち、アクセルを踏んでも内輪が空転してしまう。内外輪の関係は作用と反作用の関係なので、内輪が空転すると駆動力が逃げてしまい、外輪にも路面に力を伝えられなくなって失速する。これを防止するのがリミテッドスリップデフ(LSD)という機構で、左右輪の回転差が一定以上になると、差動を制限する仕組みである。

スムーズに曲がるにはデフが必要だが、内輪が空転して失速する。デフの差動を一部制限するのがLSDだ

 さて、このLSD、普通はこれまで書いたように説明するのが常だが、実は他にも有用な機能がある。左右の回転数差を拘束するということは、円弧の差を許容しない、つまりクルマが曲がろうとすることに抵抗し、真っ直ぐ走らせることも意味する。うまく使えば挙動を安定させるという役割もあるのだ。NB型以降のロードスターに採用されてきたLSDは、加速側でも減速側でも同じように拘束するので、拘束を強くし過ぎると曲がりたいターンインで曲がらなくなる。駆動とスタビリティのバランスを適宜取ることが難しかったのだ。

 LSDには多彩な種類があるが、ひとまずここでは機械式を前提に話を進めたい。要するに機械式LSDは、その求める効果によって、拘束力の付け方にいろいろなバリエーションが出てくる。一般的には、加速側だけ効く1ウェイLSD、加速にも減速側にも均等に効く2ウェイLSD、駆動側の拘束力に対して減速側の拘束力を弱める1.5ウェイがある。ここに新たに加わったのが今回マツダがリリースしたマイナス1.5ウェイともいえるアシンメトリックLSDである。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.