繰り返すが、英国では少量生産のメーカーに対する緩和措置があり、それによって自動車文化が維持されて、世界中にスポーツカーを供給するブランドが維持されている。しかし産業が優先されてきた日本の自動車業界ではスポーツカー専門メーカーという業種がそもそも育たず、自動車メーカーが商売度外視でクルマ好きの理想を追求したクルマを作ることで、クルマ好きを育て、維持してきた。
マツダは「ロードスター」という財産を創生して、今年で35年がたつ。当初は「ユーノス」という新たなブランドを立ち上げ、その目玉となるクルマとしてピュアな2シーターオープンスポーツを作り上げた。以来、ユーノスのブランドが廃止されても、マツダ・ロードスターはモデルチェンジを繰り返し、その時代に見合ったスポーツカーへと仕立て上げられてきた。
先日も大掛かりなマイナーチェンジを受けたNDロードスターに試乗し、開発に携わったエンジニアの方々に話をうかがうことができた。今回のマイナーチェンジは新しく導入されるサイバーセキュリティ法に対応するためのものだ。
しかしそれだけではロードスターのファンやスポーツカー好きは納得してくれないので、と言い訳をしつつ、開発主査を務めた齋藤茂樹氏は商品改良の全貌を解説してくれた。灯火類のオールLED化やダッシュボードの液晶モニター大型化(メーター周りの金型変更を含む)まで断行して、これまで懸念だった問題を解決できたのだとか。
極め付きは電動パワーステアリング(EPS)の変更である。マイナーチェンジであるから通常なら制御を煮詰めて、より自然なステアリングフィールを目指す程度のものであるはずだ。ところが今回、マツダはステアリング系のほとんどを作り直してきた。
従来は複数のサプライヤーからEPSの供給を受けて、制御ロジックやパラメータ(制御の要素)が異なるEPSを同じステアリングフィールに仕立てるために苦心していたらしい。そこでモーターやECU、制御ロジックを内製化することにより、構造を最適化するとともにモーターや制御も作り直したのだ。
これまで複数サプライヤーから供給を受け、そのロジックやパラメータを知り尽くしたからこそ、スポーツカーにとって最適な制御を見つけ、理想的なステアリングフィールを作り出せたのである。
もはや、規制対応が目的なのか、規制対応にかこつけたコスト度外視の改良なのか、分からなくなってくるが、そこに自動車メーカーのクルマ好きに対する対応が見えていた。
いずれは電動化しなければならないことを見据えているから、現状のロードスターを生き長らえさせて、その間に電動化技術の成熟を待つ作戦らしい。
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