「日の丸半導体」栄光は復活するのか “TSMCバブル”の落とし穴スピン経済の歩き方(2/6 ページ)

» 2024年02月28日 05時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

「日の丸半導体」自身がよく分かっている事実

 世界トップの技術力を持つ勢いのある海外企業を誘致したくらいで、その国の技術力が劇的に上がって、競争力が高まっていくなんてムシのいい話はない。もちろん、現地採用した技術者やパートナー企業との間で「技術移転」はある程度は進む。しかし、それくらいのことで世界的企業が育つほど「ものづくり」の世界は甘いものではないのだ。この厳しい現実を誰よりもよく分かっているのが、実は日の丸半導体なのだ。

 よく言われるように、1980年代の日の丸半導体は現在のTSMCと重なる。世界のDRAM(半導体メモリの一種)市場トップ5はすべて日本企業が独占し、89年には半導体シェア53%を実現。圧倒的な強さにより、日米貿易摩擦まで起きるほどだった。

かつては日本企業が独占していた半導体市場(画像はイメージ)

 そんな飛ぶ鳥を落とす勢いの「世界的半導体企業」に対して、今の日本政府がTSMCにやったように「ぜひわが国へ進出してください」と揉み手で擦り寄ってくる国がいくつもあった。自国経済を浮揚させるのに、勢いのある外資系半導体メーカーを誘致して、雇用拡大や経済成長はもちろん、自国の技術者に先端技術を学ばせることによって、世界で戦える国産半導体企業の設立を目指そうというのだ。

 そんな「半導体立国」を掲げた国の1つがマレーシアだ。

 マレーシアは70年代から外資系半導体メーカーを多く誘致し、かつては「東洋のシリコンバレー」と呼ばれた。では、多くの半導体企業はなぜ同国に拠点をつくったのか。英語が通じることや当時、組合やストライキの自由がかなり制限されていたという魅力もあるが、やはり大きいのは「安くて質のいい労働者」だ。

 信越化学グループの「信越半導体マレーシア」(当時)は86年、マレーシア進出のメリットをこのように語っている。

『労賃はシンガポールの半分。マレー人は視力が良く、ICウエハーの目視検査は抜群。日本より不良率が少ない』(日経産業新聞 1986年11月26日)

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