「日の丸半導体」栄光は復活するのか “TSMCバブル”の落とし穴スピン経済の歩き方(5/6 ページ)

» 2024年02月28日 05時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

通勤ラッシュが問題に

 TSMCバブルで沸く熊本・菊陽町の主要道路である国道443号や県道は、朝や夕方の通勤ラッシュ時の大渋滞が問題となっており、対策として無料バスの実証実験などが行われている。

 一方、マレーシアでも半導体企業など電子産業が多くある北部ペナン島と、マレーシア初のハイテク工業団地クリムの間で毎日生じる交通渋滞が問題になっている。これもマレーシア政府は道路拡充などで対応していくという。

 かつて「シリコンアイランド」ともてはやされた日本の九州と、同じくかつて「東洋のシリコンバレー」と呼ばれたマレーシアで、外資が仕掛ける「半導体バブル」が起きているというのは非常に興味深い。

 ポジティブシンキングの人たちからすれば「日本やマレーシアの再興を、世界的半導体メーカーが応援してくれているのだ」となるだろうが、生き馬の目を抜く半導体戦争においては、そんなハートウォーミングな理屈で大企業は動かない。「親切な隣人」の顔でおいしい話を持ちかけながらも、頭では自国や自社の利益を最優先に考えているものだ。

 それがよく分かるのが、米国だ。同国は「半導体産業の成長可能性が高い国」としてフィリピン、ベトナム、パナマ、コスタリカ、プエルトリコ、メキシコを指名し、今後5年間で5億ドル(約730億円)を支援する方針だ。では、これらの国を本気で成長させたいのかというとそうではなく、米中対立が激化した場合の「脱中国」サプライチェーンのためだ。

 「台湾有事」が起きてシーレーンが破壊された場合、東アジアのサプライチェーンは使いものにならない。だから、日本、台湾、韓国と半導体供給網構想「チップ4同盟」を進めながらも「プランB」にも力を入れているのだ。

 そんな風に各国が、それぞれの国益を考えながら狐と狸の化かし合いをしているのが、半導体戦略だ。いくら親日国とはいえ、台湾のTSMCが「日の丸半導体復活」を後押ししてくれるなんて甘い期待を抱くのは「お人好し」を通り越して「平和ボケ」だと言わざるを得ない。

TSMC(出典:ロイター)

 「対中国サプライチェーン」という点では確かにいい。だが、栄枯盛衰の激しい半導体業界でTSMCがこの先もトップでいられる根拠などない。業績が悪くなれば規模も縮小するだろうし最悪、工場閉鎖もある。

 世界的企業からすれば「安い工場」が1つ消えるだけだ。「日の丸半導体復活」だなんだという日本側の事情など知ったことではない。世界はそういう厳しい現実にあふれていることは、外交や国際政治の歴史を学べば明らかだ。

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