安否確認ルールの「あいまいさ」、能登地震で浮き彫りに――被災地域の企業のリアル企業が備えるBCP(2/2 ページ)

» 2024年02月29日 12時17分 公開
[岡安太志ITmedia]
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「安否確認」という仕組みのあいまいさ

 地震のような大規模災害が発生した際の対応として、まず思い浮かべるのは「従業員の安否確認」ではないだろうか。能登半島地震における安否確認で浮かび上がった課題として最も多かったのは「帰省や旅行者の安否確認に苦慮した」であった。次に「回答が遅かった」「余震を含め、最終的な安否確認に苦慮した」「余震の度に安否確認システムが発動し集計に苦慮した」などが続いた。

安否確認における課題

 安否確認と一口で言っても、どの程度まで徹底的に行うべきかという明確な基準を設けるのは難しい。今回の地震のように多くの企業が稼働を止めている元日に、従業員に対して現在地や状況をどこまで詳細に、そして迅速に報告させるべきなのだろうか。中澤氏は2つの判断基準を挙げる。

 「一つは安全配慮義務。主に勤務中に発災した時、自社の従業員か無事かどうかを確認するのは、会社の責務として必要だろうと考える。もう二つ目は事業継続の観点だ。現状多くの企業では、この2つの目的が混在したまま運用しているのが実情ではないか」

 また、安否確認が取れることに越したことはないものの、100%の回答率にこだわり過ぎるのも本質的でないと指摘する。

 「危機管理担当者の立場で見ると、安否確認の取り組みは判断材料として評価しやすく、かつ経営者にも明確に報告しやすい。今は安否確認システムも多く存在し、導入・着手しやすい環境も整っている。従ってそれだけが先行して、とにかく厳密に、早く安否確認を取ろうとする傾向があるのも事実だ。一方で、安否確認によって命を直接的に救うことはできない。

 全体像を把握するために、発災から3日くらいで安否確認がほぼほぼ取れれば十分と考えている。あとは各従業員への防災教育がしっかりと機能するようにしておくことの方が重要だ」

会社存続の危機を「リソース別」に評価する

 平時からの備えが重要だとはいえ、全ての危機発生シナリオを想定しておくのはキリがない。そこで役に立つのは「結果事象型BCP」という考え方だ。これは災害によって発生した影響(被害)に着目した考え方である。中澤氏は、会社の「リソース別の被害」に応じた備えをしておくことが効果的だと話す。

 「『どのリソースがやられた時にどの事業がダメになるのか』という観点で分析しておくと、特定のリソースへの依存度が高い事業が分かる。例えば、取引先Aが災害などで操業が止まると、自社の主要な事業も全て止まってしまうというようなケースだ。

 こうした場合は、各事業で取引先Aの代替となる取引先を用意しておくか、またはこの取引先から調達する部品については多めに在庫を持っておくなどの対策が考えられる。今回の地震のように物流が寸断された場合、いかに社内の対策が十分でも事業継続が難しくなってしまう。そのため、自社の重要な事業にどのようなリソースが寄与しているかを分析した上で対策を打っておくことが重要だ」

会社存続の危機を「リソース別」に評価する

調査概要

 本調査はリスク対策.comが、1月24日〜2月2日までインターネット上で実施した。リスク対策.comのメールマガジン購読者およびインターネット調査会社のアンケートシステムに登録している回答者のうち、北陸4県(新潟県、富山県、石川県、福井県)に在住の経営者を対象に行い、合計470件の回答を得た。

 このうち北陸4県もしくは、能登半島地震において震度5弱以上の揺れを観測した地域に、本社や支店、営業所など何らかの自社施設を有するとした回答を抽出。さらに回答者自身が「経営者として危機管理担当に責任を持つ立場」もしくは「経営者以外で危機管理担当者として責任を持つ立場」の回答だけを採用し、計250件を有効回答として分析した。

話を聞いた人:中澤 幸介(なかざわ・こうすけ)

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2007年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。

国内外多数のBCP事例を取材。

内閣府プロジェクト「平成25年度事業継続マネジメントを通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務」アドバイザー、平成26〜28年度 地区防災計画アドバイ ザリーボード、国際危機管理学会TIEMS日本支部理事、地区防災計画学会監事、熊本県「熊本地震への対応に係る検証アドバイザー」他。講演多数。

著書に『被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ』『LIFE 命を守る教科書』、共著・監修『防災+手帳』(創日社)がある。

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