3月16日、北陸新幹線開業でJR3社の意向を探る杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)

» 2024年03月09日 08時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

東日本vs東海、東京〜北陸の旅客獲得競争はあるか

 北陸新幹線は、1997年に東京〜長野間が開業した。当時は北陸まで到達していなかったから「長野新幹線」と呼ばれた。15年に長野〜金沢間が開業し、ついに福井県敦賀まで到達する。福井県にとって待望の「東京直通新幹線列車」だ。

 東京から福井、敦賀へ行く場合の所要時間を現行ダイヤと比較してみよう。そうはいっても、最短所要時間で乗り継げる時間帯が異なるので、最速列車同士の比較は参考程度だ。実際には乗りたい時間、到着したい時間、運賃+特急料金の比較になる。

 東京〜福井間の北陸新幹線で最速列車「かがやき」は所要時間が2時間51分。従来の北陸新幹線を金沢で乗り継ぎ、在来線特急を利用するルートは最速で3時間27分だから、約36分の短縮になる。東海道新幹線を米原で乗り継ぐルートは最速で3時間20分となっていて、約29分の短縮だ。運賃+特急料金は全区間北陸新幹線の場合は1万6010円。金沢乗り継ぎが1万6340円。米原乗り継ぎが1万5130円。

 東京〜福井間は、いままで時間帯によっては東海道新幹線経由のほうが早かった。JR東日本対JR東海の構図だ。しかし3月16日からは、北陸新幹線経由のほうが早い。乗り継ぎなしで行けるところも強みだろう。鉄道・運輸機構に「乗り継ぎ1回の精神的負担は30分の所要時間増に相当する」という報告書がある。これからは“精神科的に”1時間も短縮される。

 東京〜敦賀間の北陸新幹線で最速列車のかがやきは所要時間が3時間8分。従来の北陸新幹線を金沢で乗り継ぎ、在来線特急を利用するルートは最速3時間58分だから、約50分の短縮になる。東海道新幹線を米原で乗り継ぐルートは最速で2時間45分で、約23分の増加となる。運賃+特急料金は全区間北陸新幹線で1万6360円。金沢乗り継ぎが1万7550円。米原乗り継ぎが1万4030円。

 東京〜敦賀間は、北陸新幹線が延伸開業しても東海道新幹線経由のほうが早い。ただし2時間45分は2回の乗り継ぎがある。東京から「のぞみ」、名古屋で「ひかり」に、米原で「しらさぎ」に乗り継ぐ。しらさぎは名古屋発の便があるが、名古屋でしらさぎに乗り継いだ場合の所要時間は、最速で2時間51分となる。北陸新幹線との所要時間差は9分だ。

 東京と福井を結ぶ鉄道ルートは、JR東海が所要時間と運賃で有利だった。これからはJR東日本が所要時間で優位となる。東京〜敦賀間は所要時間、運賃ともJR東海に軍配が上がる。JR東日本とJR西日本は「東京〜福井・敦賀、乗り継ぎなし」をアピールすることになる。福井県にとっては観光誘客のチャンスだ。

 もっともJR東海は東名阪の太い需要を抱えており、東京〜福井のルートでJR東日本と真剣勝負するつもりはないだろう。現状のままでも有利だからだ。何か仕掛けるとすれば、名古屋途中下車プランの旅行商品や、得意の「推し旅ツアー」で米原、長浜を取り込むくらいか。

東京〜敦賀間の所要時間は、東海道新幹線経由のほうが短い(写真提供:ゲッティイメージズ)

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