3月16日、北陸新幹線開業でJR3社の意向を探る杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)

» 2024年03月09日 08時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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富山は金沢乗り換えの影響を受けたか

 新幹線は計画通りに全線開通させないと、「新幹線ができたせいで乗り継ぎが発生し運賃が上がる」という現象が起きる。15年の北陸新幹線の長野〜金沢間開業で、富山〜京阪神間の利用者が影響を受けた。今回は乗り継ぎ駅が金沢から敦賀に変わる。新大阪〜富山間は敦賀乗り継ぎで最短2時間32分。運賃+料金1万290円。金沢乗り継ぎは3時間2分。運賃+料金は9590円。30分短縮されて700円高くなる。これは改善効果が高いといえる。金沢乗り換えでは不満もあっただろうけれども、少し気が晴れたかもしれない。

 金沢乗り換えが発生して、京阪神と富山県の人々の往来に影響があっただろうか。資料を探したけれども、京阪神〜富山県で影響があったというデータを見つけられなかった。そもそも京阪神〜富山県の鉄道利用者数の統計データが見当たらない。JR西日本が公開する北陸新幹線の利用者数データは上越妙高〜糸魚川間の調査結果だった。これでは富山周辺の変化は分からない。

 手がかりとして、JR西日本のダイヤ改正の履歴を探した。

 北陸新幹線の金沢延伸開業後となる16年は、サンダーバードを1往復増発していて、北陸方面の手堅い需要を感じさせる。しかし北陸新幹線の乗り換えの受け皿となる特急「つるぎ」の増発はない。逆に減便もないので乗客減はなく、北陸新幹線の列車供給量に余裕がある。

 17年のダイヤ改正は、金沢から東京方面の夕刻の運行間隔を見直し、金沢駅のサンダーバードとかがやきの乗り換え時間を短縮した。北陸新幹線によって関西から信州への観光需要が増え始めた頃だ。

 18年は京阪神と北陸方面に関する変更はなし。

 19年は北陸新幹線に上野発の臨時列車としてかがやきを1本設定し、サンダーバードを1往復増発した。京阪神〜北陸間の需要は厚い。

 20年は京阪神〜北陸新幹線に変化なし。ダイヤ改正日は3月14日で、この前日に新型コロナウイルス対策の特別措置法が成立した。新型コロナウイルス感染拡大の懸念が広がり、いわゆるコロナ禍が始まる。4月7日に東京、大阪などで緊急事態宣言が発出された。

 21年のダイヤ改正はかがやきと「はくたか」の所要時間が短縮された。上野〜大宮間の最高速度が引き上げられたためだ。しかし、つるぎの一部は臨時列車化した。これは京阪神〜富山に限らず、ほかの線区も含めて減便傾向になっている。これ以降のダイヤ改正は新型コロナウイルス感染拡大を懸念した減便が続き、参考にならない。

 経済関係のデータをはじめ出生率まで数字を見たけれど、コロナ禍前はおおむね「東京圏と直結したことで観光も経済も上向き。首都圏への人口流出も多かったけれど、経済が活況のため出生率が増えている」という印象だ。金沢延伸前では、メディアも「いままでサンダーバードは乗り換えなしだったのに、富山は不便で高くなる」という論調が多かったけれど、金沢延伸開業後は「京阪神〜富山間」が不便になり影響があったという話を聞かない。首都圏直結効果が大きくて、京阪神向けの話題がほとんどない。

 つまり京阪神〜北陸間は、乗り継ぎが不便でも割高になっても新幹線が選ばれる。仕事で乗る人は経費だし、帰省や旅行で乗る人はめったにない出費である。「バースデーケーキが2割値上がりしてもやっぱり買う」に近い消費者心理ではないか。

 各駅停車や高速バスを利用すれば、運賃は安いけど所要時間は数時間増える。むしろJR西日本はもっと値上げしても構わなかったわけで、この金額で抑えてくれて良心的というべきか。いや違う。この状態は、乗客の貴重な時間を人質に取って、割高な料金を払わせるようなものだ。このひねくれた状態を解消するために、なるべく早く北陸新幹線を敦賀から新大阪まで延伸してほしい。

北陸新幹線は全線開通しないと本領を発揮しない(出典:富山県、北陸新幹線が、日本を変える。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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