半導体に沸く熊本、高賃金の黒船襲来 給料を上げるには?産業創出という打ち出の小槌 (2/5 ページ)

» 2024年03月09日 18時34分 公開
[産経新聞]
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九州は原発再稼働で先行

 九州は東日本大震災後の原発再稼働で先頭を走り、現在4基が稼働する。熊本商工会議所会頭の久我彰登(鶴屋百貨店会長)は「電力は非常に大事。(安価で)安定した供給が進出企業にとって必要条件になっている」と指摘し、九州のエネルギー安全保障が半導体産業の集積に大きな優位性を発揮していると認める。TSMCの誘致は熊本のみならず九州全域を活気づけている。

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 ただ、TSMCの月給は大卒で28万円、博士課程修了は36万円で全国平均より5万円以上も高い。高い給料を提示しなければ優秀な人材は獲得できず、熊本県全域で既に労働者の奪い合いが始まった。

 半導体製造装置を作る「くまさんメディクス」(熊本市)は、大卒初任給を令和5年に1万3千円、6年に2千円増やし20万円に引き上げた。とはいえ九州では地方銀行を中心に20万円台後半の初任給を打ち出す企業が続き、社長の白瀬嗣久は「もう一回上げないとだめだな」と頭を抱える。

 同社は円安で海外向け取引が好調な販売先の協力もあり原材料価格や労務費の価格転嫁ができ、足元で賃上げの原資は確保できた。だが、周囲には、賃上げできず人手不足で苦しい状況に追い込まれた零細企業もある。

 TSMCが今年12月に出荷開始するのを前に、今後は生産ラインで働く派遣社員の不足も懸念される。表向きの歓迎ムードとは裏腹に、高賃金の“黒船”襲来で地元企業の悩みも深まっている。

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