「イトーヨーカドー」はなぜ大量閉店に追い込まれたのか “撤退できぬ病”の可能性スピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2024年03月20日 08時15分 公開
[窪田順生ITmedia]
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インパール作戦とは?

 およそ3万人が命を落とし、世界中の戦史家から「太平洋戦争で最も無謀」とボロカスに酷評されるこの作戦について、実は大本営でも否定的な声が多かった。戦況報告を受けた陸軍幹部たちも心の中では「撤退すべきでは」と揺れていて、東條英機もそうだった。

『この報告の場には、参謀本部・陸軍省の課長以上の幹部が同席していたので、東條としては陸軍中央が敗北主義に陥ることを憂慮したのであろう。このあと別室で2人の参謀次長だけとの協議になったとき、東條は「困ったことになった」と頭を抱えるようにして困惑していたという』(防衛省 戦争史研究国際フォーラム報告書 戦争指導者としての東條英機より)

 しかし、この無謀な作戦は進められる。東條をはじめ幹部たちは「撤退」を言い出すかどうか最後まで迷いながら、誰も強く言い出さなかった。そして、この作戦に至るまで多くの犠牲者を出している陸軍内部でも「これまで散っていった戦友たちのためにも、今さらやめられない」というムードが強かったからだ。つまり、陸軍は「プライド」によって自縄自縛の状態だったのだ。だから幹部は誰も「こんな無謀な作戦から徹底しよう」の一言が言い出せず沈黙し、最前線の兵士たちを「負け戦」に突っ込ませてしまったのである。

 戦争と企業活動という違いはあるものの、このあたりの構造はほとんど変わらない。

 「集団合議」の日本型組織では、幹部たちが「撤退できない病」に蝕(むしば)まれて、結局誰も何も決断をすることなく、問題を先延ばしにしていくことが多々ある。そして「ヤバいなあ。このままだったらヤバいよなあ」とつぶやきながら、組織全体が破滅に進んでいく。

 100年の歴史を持つ名門企業ですら、この「病」には無力だった。皆さんの会社もぜひお気を付けていただきたい。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受


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