自動車運転の業務の労働時間については、24年から年間の時間外労働の上限が960時間となります。では、物流業界の労働時間については、どのような問題があるのでしょうか。
物流においては、荷待ち時間、待機時間の発生や長距離輸送によって、他の産業に比べて拘束時間が長くなり、結果として時間外労働が発生しやすい状況にあります。
また、道路貨物運送業の運転従事者数は、今後の少子高齢化の影響を受け減少傾向に拍車がかかることから、15年の76.7万人から30年には51.9万人となり、15年間で3割減少すると推計されています。
休みをしっかり確保して一人当たりの労働時間を減らしたいのに、代わりのドライバーがいないという極めて難しい問題に物流業界は直面しています。
さらに、「改善基準告示」も意識する必要があります。これは「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(厚生労働大臣告示)のことです。自動車運転者の長時間労働を防ぐことは、労働者自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点からも重要であることから、トラック、バス、ハイヤー・タクシーなどの自動車運転者について、労働時間などの労働条件の向上を図るため拘束時間の上限、休息期間について基準などが設けられています。
改善基準告示は、1997年以降の改正が行われていませんでしたが、労働時間の上限規制の猶予の終了とともに見直されることになります。
図内で示されている、「拘束時間」と「休息時間」の定義は以下です。
このように労働時間だけでなく、休憩時間も含めた拘束時間にも注意を払う必要があります。
どちらの業界においても、クライアントから仕事を受ける元請け企業の下で、下請け企業が業務を遂行するという構造になっているため、下請け企業においては自社だけで対策が取りにくいという現状があります。
ただ2024年問題を受けて、建設業界では国土交通省により「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」が策定され、週休2日の確保を前提とした適正な工期設定を求められています。
このあたりが順守されることにより、休日数については一定の改善は期待できると考えられます。また、物流業界でも、輸送業務の委託を重ねる「多重下請け」を是正するため、元請け業者に取引管理簿の作成を義務付け、さらに契約内容を明確にして下請け側が利益を確保しやすくし、運転手の賃上げを狙うための法改正が進んでいます。
これらのトレンドに乗り遅れないように常に情報収集を進め、元請け企業とのコミュニケーションを図る必要があります。そのうえで、それぞれの企業はDX推進により業務の効率化に取り組み、採用と定着率改善によって人材確保を強化すると良いでしょう。
特に採用においては、両業界ともに体力に自信がありそうな男性がフルタイムで働くというイメージがあるため、それを払拭して多様な人材が活躍できるように進めていく必要があります。
このあたりの事例は、厚生労働省の「働き方改革特設サイト 中小企業の取り組み事例」に紹介されていますので参考にすると良いでしょう。
いずれにせよ業界の古くからの慣習を見直す良い機会と捉え、抜本的な取り組みを進めていきましょう。
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