独立直後に損害賠償、酔った客が店内破壊…… 小さな「立ち飲み」業態で上場した社長が語る“平たんではない”道のり(5/5 ページ)

» 2024年03月25日 05時00分 公開
[三ツ井創太郎ITmedia]
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開業前に損害賠償というトラブル

 「排水管の老朽化により漏水が発生し、下の階の店舗に損害を与えてしまいました。そのためオープンが3週間遅れ、漏水の損害賠償も背負うことになりました。

 その後、何とかオープンできましたが、オープン日が大幅に遅れたことと損害賠償などで運転資金が底をついてしまい、“今日必ず10万円売らないと倒産する”といった自転車操業の状態が続きました。さらにオープン直後には、酔っぱらったお客さまが暴れてお店が壊れただけでなく、オープンから数日通ってくださっていたお客さまが怒って帰ってしまったこともありました。

 さらに、先輩の忠告通り、当時の名古屋では立ち飲み業態がまだ珍しかったため、お店の前には来てくださるのですが、店の外から怪訝(けげん)な顔で店内を眺めて帰ってしまう方も多かったです。

 こうした光景を見るたびに“やはり立ち飲み業態にしたのは間違いだったのではないか?”“ホルモン串焼き以外のメニューにした方が良いのでは?”といった迷いも頭をよぎり、飲食業の大変さを身に染みて感じる日々でした」

 そんな中でも大谷社長は、毎日欠かさず店舗の周りでチラシを配り、怪訝そうにお店を眺めて通り過ぎる人に直接声をかけて入店を促し続けます。こうして一人、また一人と少しずつお客さまが増えてきました。

提供する料理

 このように営業を続ける中で、大谷社長はとある光景を店内で目にすることが多くなりました。それは、一人で来店したお客さまが、店内での距離が近いこともあってか、いつしか隣のお客さまとの会話が弾み、仲良くなる姿でした。当初は初対面であったお客さま同士が笑顔で語り合うコミュニティーが出来上がっていったのです。

 「正直、オープンするまで私は鮮度が最高でおいしいホルモンを提供すれば、お客さまがたくさん来店してくれるものだと思っていました。しかし、常連のお客さまが増え、そのお客さま同士が親しくなって、楽しそうに語り合っている光景を見たことで、お客さまは単においしい料理だけを楽しみに来ているのではなく、他のお客さまとの会話やコミュニケーションを楽しみに来ているという、本質的な来店動機に気づくことができました」

 “本質的な来店動機”――これはまさに、大谷社長がインド料理店のランチバイキングの大成功で学んだことでもありました。どうしたらもっと多くのお客さま同士が仲良くなり、コミュニティーを広げていけるか悩んだ大谷社長は、その後の「立呑み焼きとん大黒」の大躍進の核となる、画期的な営業スタイルを思いつきます。

 営業スタイルの概要や、店舗が拡大していく過程については後編でご紹介します。

味噌おでん

著者プロフィール

三ツ井創太郎

株式会社スリーウェルマネジメント代表。数多くのテレビでのコメンテーターや新聞、雑誌等への執筆も手掛ける飲食業・宿泊業専門のコンサルタント。大学卒業と同時に東京の飲食企業にて料理長や店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、東証一部上場のコンサルティング会社である株式会社船井総研に入社。飲食部門のチームリーダーとし個人店から大手上場外食チェーン、宿泊業まで幅広いクライアントに対して経営支援を行う。2016年に飲食店に特化したコンサルティング会社である株式会社スリーウェルマネジメント設立。近年は政府系金融機関をはじめ、東京都の中小企業支援事業の選任コンサルタント、青森県の業務委託コンサルタントに任命される等、行政と一体となった中小企業支援も積極的に行っている。著書の「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則(DOBOOK)」「あたらしい飲食店経営35の繁盛法則 V字回復を実現する! (DOBOOK)」はアマゾン外食本ランキングの1位を獲得。


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